「いや、今の俺の声なんか……」

苦々しく笑う顔を向けられ、後悔する。

バカ、私!

「あ、うん……。私、今の伊月くんが、ただ話している声も好きだから、歌声もきっと好きになるんだろうなって思ったの。ごめんね、忘れて」

彼が、昔の声が恋しくて、毎日イヤホンで聴いていたこと、私が一番分かっていたはずなのに。


そろそろチャイムが鳴りそうな時間になり、教室の外に出ていた生徒たちが、続々戻ってくる。

「私たちも、戻ろっか。伊月くん、また聴かせてね」

イヤホンを外して、渡そうとすると、伊月くんが微動だにせず、固まっていた。

「? 伊月くん?」

「あ、いや、……真桜が」

「私が?」

そこまで言って、伊月くんは口元を手で隠す。

私が……?

ハッとする。

やっぱり気にさわった!?

「い、伊月くん、ごめ……」

「今の俺の声を、……とか」

「え? 今の声? うん、好きだよ」

あれ?
気にさわったわけじゃないみたい……?

「ナデシコの歌も可愛くて綺麗で好きだけど、今の声はすごく心臓に悪いよね。聞くと、ドキドキしちゃうもん」