静かに玄関を開けて、部屋に戻る


そのままベッドに沈みこんだけれど、冷たいシーツでやけに悲しくなって、すぐに起き上がった


「……せんぱーい」

天井に向かって呟いても電話だって、メッセージすら帰ってこないのはわかってた


でも、会いたいよ


私だって、周りのクリスマスムードに染まりたいよ


せめて、一日でもいいから先輩と過ごしたいよ



悲しくて、ギュッと目を瞑った時、



「羽華、ただいまー?」



低くて心地の良い声が部屋に響いた


「……瑠海にぃ、私は今とっても傷心中なの」

「え、うけるね」


見るからに元気がないだろう妹のことを笑いながら、ズカズカと部屋の中に入ってきたのは、


今年、美容専門学校を卒業した兄の瑠海(ルカ)


私と同じ、蜂蜜色の髪は程よく伸びていて、天然パーマでフワフワ揺れている


大きな瞳は髪と同じでうっすら茶色がかっている


この兄


実に格好いい


彼もそれを自覚しているらしく、自分の見た目をフルで活用している


つまり、この人、男にも女にも老若男女、誰にでもモテるのです



私より頭一個分の身長はあるものの、男の人にしては小柄な方だと思う


前に瑠海にぃの友だちに、瑠海にぃのことを聞いたら、



『毒舌で罵ってくれるとこが好き』



と、皆口を揃えて言っていたのが怖かった


私の隣に腰を下ろした瑠海にぃを見れば、茶色の瞳が不思議そうに揺れていた


……可愛い

フワフワ揺れるパーマに、ふさふさの睫毛も全部が兄のために用意されて、全てが兄によって、活かされて、輝いている様に見える


でも、性格がなぁ


「でも、比べて先輩は全部完璧だもんなぁ」

「あ?なんだ、九条湊のことでそんなやつれた顔してんのか?」


瑠海にぃは、湊先輩のことが気に入らないらしく、やたらと嫌っている


その割りに先輩が家に遊びに来れば、私達の至福の時間を邪魔して、湊先輩にちょっかいをかけている