「……九条湊」

「あ、はい?」


九条湊に顔を寄せて鼻先に指を突きつける

羽華が俺の腰に纏わり付いて抗議を始めたけど

そんなの今は気にしない



「これからする質問に三秒で答えて」

「……えぇ、なに?何だって?」


げぇっと顔を歪ませる九条湊をきつく睨めば、眠そうだった目を開いて、突きつけていた俺の手を横にずらした九条湊


む、ムカつく奴だっ!

ちょっと俺より身長が高いからって!!



「誰が女顔だっ!!」

「いや、何にも言ってない……」

「質問!!羽華の好きな食べ物は何?」


うんざりした顔で俺の事を見下ろしている九条湊を、無視して質問を開始する

即答、三秒



「俺」



ふざけた答えが帰ってきた


「はぁ?食べ物っつてんだろ……」

「正解です!!先輩っ」


隣からひょっこり顔を出した羽華は、満面の笑みで九条湊に抱きついた


「本人もこう言ってるんで、正解ですね」

「……っ、つ、次だっ!」


まだやるのっ??と羽華が睨んできたけど、これも無視


「羽華が最近使ってる香水の名前!!」


俺がそう言った途端、二人は顔を見合わせてキョトンとした


ふふん!これはホントに新情報だから、絶対に知らないはず!


それに羽華は、少量しか付けていないから、よっぽど近くにいないと気づけないはず!


これでお前の愛を確かめてやる!九条湊!



「あー、この金木犀みたいな香りのこと?」


!!


しれっとした表情で俺に訪ねてきた


こ、こいつ、気づいて……


「これ、俺があげたヤツなんです、なんなら俺と同じ香水」


使い欠けなのにしつこくねだってきたのであげちゃいました、「ね?」とニコニコの羽華に対し無表情ではあるが、仲良さげに、見つめ合っている


つ、つまり二人は同じ匂いを漂わせてるってこと……?


「……うっ」


「う?」

「瑠海にぃ?」



「うわああああああああっ!!」



ず、ずるい!!


俺だってそんな洒落たことしたことないのに!


まさか同じ匂いを付けてマーキングしておくとは……!

九条湊、恐ろしい奴!!


何も考えていなさそうに見えて、独占欲丸出しって訳かよ!


「ギャップに萌えたのかああっ羽華あああっ」


「おにーさんって、よく叫ぶタイプの人種?」

「そんなことは……ちょっと自己評価が高いところはあるんですが…」


二人とも困った表情で、羽華なんかは、九条湊の後ろに隠れて、俺の事を引いた目でみてくるし!


もう!九条湊という有害クソムシ野郎のせいで、羽華の俺に対する、イケメン爽やか兄のイメージが崩れていく!!



「……っ九条湊!!」

「あ、はい」



無駄に背の高いこいつに近づいて、見上げてやれば無気力げな瞳で見下ろされた


「……ちょと、しゃがんで」

「……え?」

「ちょっ!瑠海にぃ!私だってまだ湊先輩のこと跪かせたことないのにっ」


ずるい!!と抗議する妹は、ほっといて九条湊と睨み合う………俺が一方的に睨んでるだけだけど


すると、今まで無表情だった顔がなぜかパアッと明るくなった


……ような気がする


その変化を訝しげに見ていれば



「お願いしますは?」



「はぁ?」



ニヤリと口角を上げた九条湊はムカつく要求をしてきた


「可愛いサイズのおにーさんの為に、俺はしゃがむんですから、丁寧に、お願いします、でしょ?」


「お、お前……とても可愛い彼女の兄に対する扱いじゃないなっ」


「とても可愛い彼女が見当たらないんで」

「あらー、先輩ったら照れちゃって!最愛の彼女、ですもんね?」

「……メンタルマウンテンゴリラの彼女ならいるけどね」


俺の存在なんか忘れて、イチャコラ始めた二人




可愛い俺だけの羽華


ずっとずっと、俺が一番側にいるんだと思ってた




でも、羽華は違ったんだよな



羽華にとっての一番を見つけてしまった


目の前にいるこの男に何もかも奪われた




「瑠海にぃ?」


目の前に羽華の顔がドアップ


心配そうに眉を潜めて、大きな瞳を不思議そうに泳がせている