「え、どーしたヒロ」

「海にぃの言ってる通り、なんでコイツが羽華と付き合ってんのかわかんねーって言ってんの」


「ひ、ヒロ?」

「羽華」


湊先輩に名前を呼ばれて、そちらを見れば、チョイチョイと手招きしている先輩


近寄ると、ポンポンと頭に手を置かれた


「この人は誰?」

「あ、えと、幼馴染みのヒロです」

「……ふーん、また面倒な幼馴染みがいるんだね、俺は洸でお腹いっぱいなんだけど?」

「私もです……」


クスリと控えめに笑った先輩は、もう一度私の頭に手を置くと、ヒロのことを見た

「えーと、ヒロくん?」

「……なんすか」

いきなり先輩に話しかけられたヒロは、眉間にシワを寄せて先輩を睨んだ


「羽華は、俺のことが好きなのね?だから、文句なら羽華に直接言うこと、理解した?」

「え」

ちょ、先輩、丸投げですか??


先輩を見上げれば、何か?という顔をされて見下ろされた


そこは、『この子は俺のだから』とかって胸キュンセリフ吐くとこですよ!!吐き散らしてくださいよ!!


や、ないな



「そーゆとこ、ムカつく」


私が先輩を恨めしげに見つめていたら、ヒロが口を開いた


「余裕そうにしてるとこも、ホントムカつくんですが、なにより、羽華に隠れてバイトしてんのは、何かやましいことでもあるんじゃないんすか?」


「……」


「だいたい、羽華が幸せそうに見えねーし、大事にされてるとも思えないんだよ」


ヒロは、揺れる瞳で私を見ると続けた


「だって普通、他のよく知らん男と一緒にいたら、気にすんだろ?特に何にも言わねーのは、羽華のこと何とも思ってねーからなんじゃねーの?」


鋭い視線で私にそう言うヒロは、少し怒っている様にも見えた


ヒロの言いたいことはわかるよ


私だって思った


あぁ、この人は私が誰とどうしようが興味ないのかなって


でも、それは信頼されてるからだって、思ってた



けど、………違ったの?


ヒロの言った通り、私はどうでもいいからなの?




「お前が余裕なのは何でか教えろよ」



ヒロが先輩の前まで来ると、先輩もヒロを真っ直ぐに見て、特に表情を変えずに言った




「自信があるから」



なにも、迷うことなく言った先輩


ヒロは、意味がわからなかったのか首を傾げた


私もだけど……


けど、続けられた言葉に私はうつむいてしまった



「羽華の一番は俺っていう自信がある」



ねぇ、先輩



嬉しい、嬉しいんだ


本当にその通りだから


でも、でもね


私は……



「……そーかよ、結局は羽華のことなんて考えてねーんじゃん、まぁ、その方が奪いやすいし、遠慮なく」


「……は?」


先輩はこの時初めて表情を暗くして、ヒロを睨んだ


「いや、どっちにも羽華はあげないけど?勝手に話進めないでくれる?」


「おーい、九条!!注文頼むー」



何かがまた始まりそうな雰囲気を壊したのは、瑠海にぃと、お店の奥から顔を出した店員さんだった


「………羽華、またね。おにーさん、今日だけは羽華のことちゃんと見ててくださいね」

「九条湊に言われなくても見てるし」


最後に私のおでこに唇で一瞬触れると、お店の奥に戻った先輩