「ラーメンじゃないの!?」
「パフェだろ」
「……彼氏、羽華の彼氏、俺じゃねーのか、俺か?俺の記憶に無いだけで本当は、俺と付き合ってるとか?いや、九条湊とか言ってたっけ?」
瑠海にぃに若干引きずられながら、足を運んだ店内は、甘くて、少し濃い木の香りもした
白と黒で統一されたお洒落な店内
天井にはプロペラみたいなのが回ってる
………伝わる?
壁は、ガラスで出来ていて、外の雪景色も眺められる
「羽華、機嫌直してよ」
「パフェなんてお腹に溜まらないじゃん」
「デカ盛りだよ?それに、こんな感じの店好きでしょ?」
「……うん。ありがと」
「はーい(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい)」
涼しい顔をした瑠海にぃと話していたら、さっきから一人でブツブツ喋ってるヒロと目が合った
「ヒロは何食べる?瑠海にぃの奢りだよ、嬉しくないの?」
「……一番たけーの頼んどいて」
「はーい」
「ん?なに、なんの話?」
なぜか、気まずそうに私から目を剃らしたヒロ
いつもみたいに太陽みたいな笑顔が今日はまだ見られていない
あっちの学校で何かあったのかな
窓の外をぼんやり眺めているヒロをこっそり盗み見る
夏に会ったときは短かった、焦げ茶色の髪は今は伸びて、少し目に掛かっている
切れ長の形の綺麗な目は、心なしか寂しげに揺れている気がした
「ヒロ?具合良くない?」
「え?いや、めっちゃ元気だから」
「そーだよなぁ、あ、そこのおにーさん!注文お願いします」
瑠海にぃがなんだか意地悪な顔をしているのが気になったけれど、そんなこと頭からぶっ飛んじゃう出来事が起きた
「羽華………?」
突然、名前を呼ばれて、ヒロを見ていた視線を上に上げる
そして、私は叫んだ
「み、湊先輩!!!!なっ、なん!!…っかあああっこいいいいいっ!」
「チッ」
私が叫んだのと瑠海にぃが舌打ちしたのが同時だった
そして、私の目の前には、いつもなら気だるそうにしている瞳がかっぴかれたまま固まってしまった湊先輩
なにより!注目すべき、そのお姿は……
黒いシャツに、黒いネクタイ
首もとは涼しげに着こなされていて、腰には紺色のお洒落なエプロンが身に付けられている
ズボンも黒で統一されていて、スラリと長い御目足が、より際立って見える
何より髪型がかあああっこいいいいいっ!
長い前髪はセンターで分けられて、黒い瞳が見え隠れしている
あぁ、今日もかっこよくてありがとうございます
「記念に一枚」
「……やめて」
私がカメラを向けると、カメラの前に手を出して、遮る先輩
眉間にシワを寄せて、手を頭にやり、溜め息を吐いてしまった
「えっと、先輩、どうしてここに?」
「……バイト」
「え、?」
短く、答えてくれた先輩の声がやけに低く聞こえて、少し悲しくなる
……そんなに嫌でしたか?
私に知られるの
確かにここの常連さんになっちゃうし、カメラだって向けちゃうし
でも、でも
私、一応、彼女なんだけどなぁ……
何も知らなかったよ
そんな格好いい制服着て
愛想よく笑みを作って接客して
色んな人と関わってて
そんな先輩
私、何にも知らなかった