「別れないし、先輩だって私のこと本当は愛してやまないはずなんだよ…多分!……それに、別れることになったら、私、たぶん爆発する」

「何を?」

「湊先輩がいなくなったこの世界を」

「キモ」


吐き捨てるように言ったかと思うと、人のベッドの上でゴロゴロし始めた


おまけにスマホゲームときた


「自分の部屋でくつろいでよー」

「傷心中の妹を一人にはできないだろー、しかも爆発するんだろー?」


寝返りを打って、顔をこちらに向けた瑠海にぃは、頭を掻いて若干眠そう


「とにかく!もっかい連絡してみれば?ホントにどっかで、くたばってるかもよ?それならそれでね?いーけど」


「よくないっ!」


さっきからメッセージを送ってるのにひとっつも既読が付かない

もー、スマホ持ってる必要無いんじゃないですか?



スマホを両手で握りしめて、先輩とのやり取りを見返す


先輩、何してるかな?


だんだん募る不安な気持ちに、表情を曇らせていたら、頭に大きな手が乗った


「まぁ、大丈夫なんじゃねーの?ほら、兄と一緒に絶品タピオカの旅にでも出掛けよう」

「……瑠海にぃ、タピオカ食べれないじゃん」

「タピオカって食べるもん?飲むもん?」

「……個人差があるんじゃない?」


なんだか気恥ずかしくて、目線こそ二人とも前を向いたままだったけど、瑠海にぃは何度も頭を優しく撫でてくれた


瑠海にぃなりに励ましてくれてると思うと、自然と顔がほころんだ



「瑠海にぃの奢り?」

「もちろん」

「じゃあ、駅前のデカ盛りラーメンも食べに行きたいなぁ」

「えー、そんなら西中学の近くのデカ盛りパフェが食べてぇかな」


私が声を明るくしたのを確認すると、頭に置いてあった手で、今度は、私の手を引き、立ち上がらせてくれた


「おーし、母さん帰ってくる前に二人で旅に出るかぁ!」

「わーい、あ、瑠海にぃパンツ見えてるよ」

「え、マジか」

「ピンクの花柄似合うね」

「うん、忘れろ?」


二人で玄関に向かいながら、会話を広げていると、突然開いたドア


「あ?」


驚いて固まった私の前に、咄嗟に立ってくれた瑠海にぃは、怪訝そうに眉を潜め、扉の方向を凝視した


私からは見えないけど、玄関に入ってきたのであろう人物を見て、低い声を出した



「お前、帰ってきたのかよ?」




「海にぃ、ただいま!冬休みだからな、羽華に会いに来たんだよ」




え、私?


瑠海にぃの背中から顔を出して、覗き込めば、その人物と目が合った



「羽華!!」


「ヒロ……!?」


靴を脱いで、ズカズカと近づいてきたヒロ


私達の前まで来ると、立ちはだかっている瑠海にぃを私からひっぺがした


キラキラした目をさらに輝かせなから、私の肩を掴み、抱き寄せた


「ただいま、羽華」

「お、おかえりっ、ぐるじぃ……!!」


強い力で抱きしめられて、苦しい!!

ヒロの肩をバシバシ叩いてもちっとも動かない


また、筋肉ついた??


もともと、たくましかった背中は、夏に会ったときよりもさらに強くなっているようだった


そんなことより!!


「ヒ、ヒロっ!!ほんと、息できなっっ」

「いつまでくっついてんだああああっ!!」

「グフッ」


ヒロのせいで、壁に吹っ飛ばされていた瑠海にぃが復活して、ヒロの横腹に飛び蹴りした


今度はヒロが壁に張り付いた


「随分と生意気になったじゃねぇか、いーか、よく聞け?あと、5秒待ってやるから、今すぐ出てけ」

「は?ちょ、海にぃ!!」

「いーーーちっ」


腕を組んで私の前に立った瑠海にぃは、地獄のカウントダウンを始めた


瑠海にぃの足にしがみついたヒロ



「待って待って!俺だって羽華に会うために二学期乗りきって、今ここにいるんだぞっ」

「そーか、そーか、にーーーいっ」

「ムリムリ、やだやだっ!!」


足に引っ付いているヒロを瑠海にぃは冷たくあしらう


今にも蹴り飛ばしそうな勢いで足を動かしている