「紅夜、あんまりいじめちゃダメだよ?」
声をかけると、紅夜はあたしに意識を向ける。
「分かったよ、美桜」
そうして甘くとろけるような笑みを向けられて額にキスをしてくるものだから、あたしは照れと恥ずかしさでまた顔が熱くなった。
ある意味とばっちりを受けたような気分になって、今度はあたしがスギモトさんを恨みたくなる。
と、そんなやり取りも不良達には分からないんだろう。
あたし達が赤黎会のことをよく知らないで、構わずイチャついてるように見えたみたい。
「お前らふざけてんのか!?」
「スギモトさん、マジでこいつら懲らしめねぇと舐められちまいますよ?」
と、スギモトさんを煽った。
でも、それで慌てたのはそのスギモトさんだ。
「っバッカヤロウ! この人を誰だと思ってやがる!? この人こそ赤黎会の総長だぞ!?」
「え?」
「は?」
不良達は何を言われたのか分からないと言った様子。
スギモトさんはそんな彼らにさらに説明しようとしたけれど……。
「だからこの人は――」
「総長の座は、シュウに返したはずだけど?」
「っ!」
紅夜が不満そうな声で告げた。
そう、紅夜が《支配者》を受け継いだと同時に赤黎会の総長の座は愁一さんに返したんだ。
紅夜が街の外に出られるようになったし、色んな意味で総長をする必要がなくなったかららしい。
再び総長となった愁一さんの女として、日葵が会合に顔見せのために参加したのはつい数日前のことだ。
あたしは自分のときのことを思い出して「怖くなかった?」と聞いたら……。
「ビックリしたし怖いには怖かったけど……。でも紅夜さんほど怖くなかったから結構大丈夫だったよ」
と笑顔で言われた。
強面の男達の視線にさらされても怖くなかったなら良かった、と言いたいところだったけれど……でも複雑な気分になった。
人の彼氏を恐怖の権化みたいに思ってないかな? 日葵は。
「す、すみません!!」
自分の失言に気づいたスギモトさんは、頭をこれでもかというほど下げて謝罪の言葉を叫んだ。
「うるさい。近所迷惑。分かったならそれでいいからさっさといなくなってくんない?」
淡々と言い放つ紅夜に、「はいっ!」と背筋を伸ばした彼は不良達を引き連れて足早にいなくなった。
本当に紅夜のことを怖がってるんだな……。
それが良く分かる光景に、あたしは複雑な気分になる。
あたしにだけ甘い紅夜は好き。
でも、他の皆に怖がられている紅夜を見るのは少し悲しい。
身内だけに甘い紅夜に、もっと外のことを知ってほしい。
色んな人や景色を知ってほしい。
そうして、紅夜が本当は愛情深い人なんだとみんなに知ってほしい。
……でも、本当にそうなったらあたし嫉妬しちゃうんだろうな。
それも分かっているから、複雑な気分になる。