「っかぁー!? 新年早々見せつけてくれんじゃん!?」
「俺らにもわけてほしいよなぁ!?」
すぐ近くで、明らかにあたし達の邪魔をするかのように大きな声が上がった。
「……」
「……」
そんな状態でキスなんて出来るわけもなく。
紅夜の顔と、頬を包んでいた手が離れていく。
あたしは寂しい様な恥ずかしい様な……。
そんな感じなのでむしろ声を上げた人達から目をそらしていたんだけれど……。
紅夜は逆に邪魔されたのを恨む様に彼らをにらんだ。
「ああ? 何だよ? ケンカ売ってんのかぁ?」
ガラの悪そうな物言いに、あたしも彼らをチラリと見る。
派手な髪色にピアスをいくつも付けている格好は、明らかに不良という出立ちだった。
「……ケンカ売ってんのはどっちだか」
紅夜が低く冷たい声で呟いた。
あたしに向けられた声じゃないのに、心臓にヒヤリとした冷気が届きそうな声。
どんなにあたしに甘くても、紅夜はあの黎華街を管理する管理人で、支配者だ。
ロート・ブルーメの花畑がなくなっても、あの街はすでに危険な街として確立してしまっている。
赤黎会のアジトとしては残しつつ、危険な街という印象は少しずつ無くしていく方針みたいだけれど……。
流石にまだまだ先の話みたい。
それと、頑なに自分は《支配人》だと言っていた紅夜だけれど、何か思うところでもあったのか正式に隆志さんから《支配者》の権限を受け継いだ。
そんな紅夜だから、やっぱり内に怖さを秘めている。
「ああん? 何だって?」
でも、その怖さに気づかないらしい不良達は紅夜に絡んでくる。
あたしは紅夜がやり過ぎないか、それだけが心配だった。
「ケンカ売ってんなら買ってやるぞ? なんたってこっちにはあの黎華街を取り仕切る赤黎会の幹部がいるんだからなぁ」
「え?」
思わず声を上げたのはあたしの方だ。
ただそれは、驚きというより呆れに近い。
街のTOPとも言える《支配者》にぶつけるには、赤黎会の幹部一人だけというはかなり心許ないと思う。
でも誰だろう?
幹部なら会合で見たから顔だけならあたしも分かる。
そう思って成り行きを見守っていると……。
「スギモトさん! 生意気なやつがいるんで懲らしめてやってくださいよ」
彼らはへりくだった言い方で自分たちの後方を見た。
「はぁ……だからそういうのは俺らはやんねぇんだって言ってる……だ、ろ……」
「あ……」
スギモトさんと呼ばれた彼は、途中で紅夜の姿を見た様で目を見開き言葉を止める。
はじめは驚きだけを宿していたその目には、すぐに恐怖の色に取って代わった。
でもまあ、それも仕方ないと思う。
だって、スギモトさんはついこの間捕まえていた男を逃がしてしまったということで紅夜に半殺しにされそうになった人だったから……。
「へぇ? 誰が誰を懲らしめるって?」
紅夜は目を細め、冷たい笑みを浮かべる。
怒っているような雰囲気は感じないから、多分面白がってる。
でもそんな紅夜と相対してしまったスギモトさんは明らかに目を泳がせうろたえていた。
そして、あたしと目が合う。
その目は“助けてくれ!”と明確に語っていた。
別に紅夜はからかっているだけで、殴りかかったりはしないのに。
でも彼にはそこまでのことは読み取れないんだろう。
あたしは仕方ないな、と軽く息を吐く。