「俺達が結婚するまで父さん達の結婚は認めないって言ったら、婚約ならって許してくれた」

「それは半分脅しなんじゃ……」

 叔母さん達が今まで紅夜にしてきたことを思えば、きっと紅夜に頭が上がらないと思う。

 それをふまえてそんな事を言ったら了承せざるを得ないんじゃ……。



 そう思って紅夜の顔を見ると、意味深に目を細め微笑んでいた。

 あ、これは分かってて言ったな。

 と、その表情だけで理解する。


「もう……わがままもほどほどにね」

 今までわがままなんて言えなかったこともあってか、最近の紅夜は結構わがままなんじゃないかと思う。

 だって、今回のプロポーズも結局のところは叔母さんと隆志さんが結婚することで、あたしと紅夜がいとこ同士になるのが嫌だってわがままから来てるものだ。


 今までを思うと悪いことじゃないとも思うけれど、ちょっと呆れてしまうこともある。


 そうして白い息を吐くと、幾分真剣な声が降りてきた。

「わがままになるのは、お前のことでだけだよ」

「え?」

 見上げると、とろけそうなほどの甘さを含んだ青と目が合う。


「色々とわがままを言えるような年齢でもないからな。他のことではこんなわがままは言わないさ」

 でも、と続けてつないでいる手を引かれる。

 密着するくらい近付いたあたしに、透き通るような彼の声が近くで響いた。


「美桜、お前のことだけは何もかもが(ゆず)れない」

 そのまま左まぶたの上あたりにキスを落とされる。

 チュッとリップ音を立てられて、あたしは照れてしまった。


「あ、あたしといとこになるのがそんなに嫌なの?」

「嫌だね。俺はお前の夫になりたいの。親戚になりたいわけじゃない」

「おっと……」

 照れを誤魔化そうと言った言葉に返ってきたのは、更にあたしを照れさせる単語だった。


 夫!?


「っっっ!」

 婚約したとはいえ結婚なんてまだまだ先だと思っていたのに、実感せざるを得ない言葉にあたしはもうどうしていいのか分からなくなる。

 心臓の音が早くなって息がしづらい。


 しかもそんなあたしに、紅夜は追い打ちをかけるように唇へのキスをした。

 触れるだけのキスだけれど、ついばむようにして離れていく唇にあたしは寒さを本気で忘れてしまう。


「え? な?」

 深夜で暗いとはいえ、街灯の灯りはある。

 それに、あたし達と同じように初詣に向かう人達もちらほら見え始めたところだった。


 こんなところでキスするなんてっ!?

「こっ紅夜っ!?」

 非難を込めて名前を呼べば。


「キスしたくなるような顔してるから悪いんだよ」

 と妖艶さを含ませて返された。

「どんな顔よそれぇ……」

 恥ずかしくて情けない声を漏らすと、紅夜の左手があたしの頬を包む。
 少しヒヤリとした手のひらが心地いいと思うほど、今のあたしの顔は熱くなっているみたいだった。

 そのまま額をコツンとくっつけられて、わずかに欲が宿った目が近くに見えた。

「そーゆー顔」

 紅夜の、形の良い唇の口角が上がる。

 そのまままた触れ合いそうになったんだけど……。