ふわふわふわり。
ちらちらちらり。
暗闇の中、小さな白花が空から降りてきた。
あたしはその花が落ちてくる場所を予測して、少し手を伸ばす。
右手に落ちた白花は、その形をよく見る前にとけて消えてしまった。
「……美桜、何してんの?」
隣を歩く紅夜が少し覗き込むようにあたしを見る。
ロート・ブルーメの花畑がなくなった事で街の外を出歩けるようになった紅夜。
今は一緒に初詣に向かっている最中だ。
「雪が降ってきたなって。掴めるかと思ったけど、すぐにとけちゃった」
「雪?」
まだ気づいていなかったのか、紅夜は不思議そうに真っ黒な空を見上げる。
深夜の曇り空は、月どころか星のまたたきすら見せてはくれない。
そんな空に向かって少し目をこらした彼は、「ああ、本当だ」と呟く。
「寒いんじゃないか? そっちの手も繋げれば良いんだけど」
あたしに視線を戻した紅夜が言う。
再会したばかりのころの怖さはなりをひそめ、すっかりあたしに優しくなった彼にクスリと笑った。
「流石に両手繋いだら歩けないよ」
もうすでに左手は彼の右手と繋がれている。
はじめは紅夜の手の方が冷たかったけど、体温が溶け合って温かくなっている。
その温かな手には、お互いに指輪がはめられていた。
紅夜の右手の薬指には、あたしが同じく右手につけているものと同じペアリング。
そしてあたしの左手にあるのは――。
「……嬉しいな」
あたしも今まさに思っていたことを紅夜が白い息を吐きながら口にした。
その視線はあたしの左手薬指に留まっている。
そこにあるのは他の宝石には出せないきらめきを持つ石がついた指輪。
地球上に天然で存在する最も固い石ゆえに、誓いの証として使われるそれは街灯のわずかな明かりを反射して美しくきらめいていた。
「あたしも嬉しい……」
微笑むと、どちらともなく握る手に力がこもった。