「ねーねー!3人は進路ってどーするの?」

始業式が終わった後、4人でランチして帰ろうってことになって、ファストフード店に寄った私達。
紗弥が、私と伶と透に質問を投げかけた。
ホームルームで、進路についてそろそろきちんと決めるようにと言われたからかな。

「俺はまだ何も決めてない。透は?」
「オレもー」
「私も決めてない」
私達は口々に答える。
「えー?3人は音楽関係じゃないの?どこの音大行くのかなって思って聞いたんだけど!」
紗弥は私たちの答えを聞いて目を丸くした。
「だってさあ…ほら、オレってば色んな才能あるじゃん!?音楽っつったってどれを選ぼうか迷うわけよ!」
「うわぁ…。そんな自意識過剰、どこも無理って言って断られるわぁ…」
自慢げに話す透を見て、紗弥は引き気味にそう返す。
それを見て笑う伶と私。

透はふざけて言ったんだけど、確かに、色んな才能がある。
透のママは、私のママと同じヴァイオリニスト。
『子供の頃からの憧れのお姉さんで、彼女みたいなりたい!って練習頑張ったから、ママもヴァイオリニストになれたのよ』って、ママがよく言っていた。
透のパパは、私のパパと高校大学の同級生。
高校では同じクラスだったけど、大学は違う学部へ進んだって言ってた。
そんな透のパパは、アメリカでオーケストラの指揮者をしている。
透は、楽器はなんでも弾けるし、どれもプロ並みに上手。
確かに、進路を迷うのって仕方ないなって、そう思った。

「そういう紗弥は、決めてるの?」
透と紗弥の言い合いを終わらせるように、伶が聞いた。
「んー…。決まんないんだよね。高卒のままでいいとも思うし、進学してもいいかなーって思うし…」
紗弥にしては珍しく、歯切れの悪い答え。
「あ!いけない。そろそろ帰んないと!」
腕時計に目をやると、紗弥はすぐさま立ち上がる。
「じゃあ先行くね〜!また明日」
にっこり笑って、紗弥は帰っていってしまった。

紗弥は高校に入った時から同じクラスだけど、歳はひとつ上。
ハッキリとした性格で、女子特有のベタベタした関係が苦手なんだって言っていた。
私も日本人慣れしてなくて、女子の群れに苦手意識があったから、すぐに仲良くなった。
お互い、深いところまで探りあったりせず、ただ一緒にいる時間を楽しめる。
紗弥も『あんた達といると楽!』ってよく言っていた。

「じゃ、俺も用事があるから行くわ」
紗弥に続いて、伶も席を立つ。
ケータイをいじりながら、そのまま行ってしまった。

放課後、伶はよくひとりでどこかへ出掛ける。

どこへ行くの?
何してるの?

…一度も聞けたことはなかった。