「玲奈、いそぐよ!」
のんびり屋の私を伶が急かす。
「ちゃんと準備してる?忘れ物ない?」
「大丈夫」
玄関先での私たちのやりとりを見て、ママがクスクスと笑う。
「伶のほうが、わたしよりママみたい!玲奈は伶がいれば安心ね」
「うん。そうだよ」私も笑顔をつくって答えた。
「2人とも、いってらっしゃーい!気をつけてね〜」
元気なママの声に押されて、玄関を出た。

一歩踏み出す外の世界。
今日見た夢と同じような、暖かい春の日差し。
緑の木々に色とりどりの花。

だけど、
今現実にみえている世界は、夢で見たキラキラした世界と打って変わって、どんよりとグレーがかってみえる。

3年前のあの日から、私の目に映る世界はとてもつまらないものになってしまった。

半歩先を歩く伶の背中を見ながら、ぼんやりと考える。

さっきママが言った通り、伶がそばにいてくれたら、
安心できる。
守ってもらえる。
何も心配いらない。

でも…
もう昔みたいに無邪気にくっついていられないの。
隣に並んで、手を繋いで、伶のことしか見ずに甘えることはできないの。

たった半歩だけど、あの日を境にできてしまったこの伶との距離が、私の心をギュッと苦しめた。