「…奈、玲奈!」
突然降ってきた私を呼ぶ声に、驚いて目を開ける。
「もう起きないと。遅刻するよ」
見開いた私の目に映ったのは、芝生に寝転んで私を見て微笑んだ、あの時と同じ眼差し。
「伶……」
ぽつりと名前を呼んだけれど、頭がぼやけてそれ以上は言葉にならなかった。
「どうしたの?寝ぼけてるの?」
ベッドサイドに腰掛けている伶は、そんな私を見て笑う。
「小さい頃の、夢を見てた。キレイな花がたくさん咲くお庭があるおうちに住んでた時の」
「5歳くらいの時だっけ。…なつかしいね」
私が話し終わると同時に、伶はスッと立ち上がって、背を向けたままそう言った。
その口調は穏やかだったけど、さっきまでとは声のトーンが違う。
少しだけ冷たいような、寂しいような…悲しみを帯びた声だった。

どうしよう…
思い出したくないこと、言っちゃったかな?

私が何も言えないでいると、伶はそのまま部屋を出て行く。
背中を見つめる私に気が付いたのか、ドアを閉める前に伶は振り向いてこっちを見た。
「早く準備しなよ」
そう言ってくれた時には、私を起こしにきた時の声に戻っていて、その表情も優しかった。

よかった…
パタンとドアの閉まる音を聞きながら、ほっと胸を撫で下ろす。