「大丈夫だよ…
俺はさくらを怖がらすためじゃなくて、今よりもっと綺麗にしたいだけなんだ。
俺の事を信じてほしい」
慈恩は私の耳元で、他の人に聞こえないくらいの小さな声でそう囁いた。
私はさっきの意地悪な慈恩を忘れていない。
でも、やっぱりどうしてもときめいてしまう自分がいる。
「は、はい、大丈夫です…」
慈恩のいい匂いは紅葉狩りの時の優しい慈恩を思い出させた。
それに、私が慈恩の思いつきに賛同したのは確かで、慈恩に協力する事は普通の流れ。
「じゃ、始めてください」
慈恩は他人に有無を言わさずに実行しようとする。
唱馬はそんな慈恩を冷めた目で見ていた。
賢くて気配りのできる唱馬は、一歩引いて事の成り行きを見ている。
ここで従兄弟同士ケンカをするなんて絶対にしちゃいけないと、静かにそう考えている。
私も同じだった。
とにかく、無事に、この一連の流れがスムーズに進む事を願うしかなかった。