「さくら、本当にいいの?」
そんな私に優しい言葉をかけてくれるのは、やっぱり唱馬だった。
あの場所で立ち聞きした負い目が私を追い詰める。
唱馬には嘘はつきたくない。
でも…
私は、今のこの時間だけ、記憶喪失になる。
私はあの場にいなかったし、誰の話も聞いていない。
さっきの二人の記憶を抹消した、今、ここで。
私は唱馬の方へ振り返ると、大丈夫と笑って見せた。
そして、鰺坂さんやスタッフの皆にもガッツポーズをして見せる。
そんな私の姿に、皆、笑ってくれた。
「じゃ、始めましょう!
それじゃ、高梨さん、ここへ座って」
私はリクライニングチェアへすっぽりと乗り込んだ。
ちょっとだけウキウキする。
こんなゴージャスなチェアに座るのは初めてだから。
でも、まるで見世物パンダのようだ。
私の行動は全て、ここに居る皆に注目されている。