「唱馬、とにかくお前はここへ何をしに来たのかよく考えろ。
女の子のお尻を追いかけるためじゃないだろ?
あと、どれくらいここへいるのかは知らないけど、もう少し大人になれ、いいな」

慈恩の言葉は鋭い棘のように聞いている者の心に刺さった。
慈恩の言っている事はよく理解できる。
でも、言い方に思いやりとか優しさとか、そういうものを感じられない。
優しい性格の唱馬が心配でしょうがない。
というか、少しだけ慈恩の本性を垣間見た気がした。
私はそのままパーティションの陰に隠れ、二人が居なくなるまで待った。
唱馬は絶対に私の事を気付いてはいない。
パーティションに対して背中を向けていたから。

でも、慈恩は確実に気付いている。
私は何だか怖くなった。
慈恩の魅力に夢中になっている自分がいるのは間違いなくて、でも、裏の慈恩の性格を知るのが怖い。
お花畑状態の私の恋心に暗雲が垂れ込める。
唯一、心の隅に残っている私の冷静な部分が、気を付けてと囁いている。