「俺はそこに唱馬がいようが何も関係ない。
フリージアの未来を考えて行動するのみだから。
お前も、もう少し、経営とか戦略とかそっち方面を学んだほうがいいんじゃないか?
叔父さんも本館の方にいるはずの唱馬がいないって、怒ってたんだから」
慈恩は従兄としてそう忠告しているのだと私は思った。
顔つきも普通だし、唱馬をいじめているようには見えない。
でも、私がそう思った直後に、慈恩の顔が明らかに変わった。
え? 私に気付いた?
私はパーティションの奥の方へ移動した。
このまま見つからずにこの場を去りたいけれど、そういう逃げ道は一つもない。
「唱馬のお気に入りの高梨さくらだけど」
慈恩はわざとらしく大きな声でそう言った。
間抜けな私は、その先の言葉が聞きたくて、そろりとまた前の場所に移動する。
唱馬は静かに慈恩を睨んでいる。