「全然、大丈夫です。
これでお肌の調子がよくなれば、最高だし。
なので、皆さん、パックの準備をお願いしますね」

スタッフがバラバラと自分のいるべき場所へ戻った時、唱馬が慈恩を連れて廊下へ出た。
私は気になって、二人をそっと追いかける。
唱馬は慈恩を男子トイレの前に連れ出した。
正午過ぎの今の時間は、お客様がちょうど途切れる時間だ。
清掃スタッフも仕事を終え休憩に入っているため、周りには誰もいない。
パーティションに隠れている私以外は。

「フリージアの事は僕に任せるって言ってたよね?
慈恩は本館や別館の案件に専念してほしいって、この間も僕は伝えた」

唱馬は慈恩より少しだけ背が低い。
二人の言い争う状況が怖くなったのか、私は全く関係のない事を考えていた。

「唱馬がフリージアにこだわる理由は何?」

慈恩の意味深な問いかけに唱馬は睨んだまま黙っている。