どうして私が選ばれたのだろう。

それはきっと……私が…、ある罪を犯したから。




カチカチカチ

「はぁー。」

私、今忙しさに追われている真っ最中です。
そう、あれは半年前の事でした……

「あ、あの……わ、私、今日からこの会社で働くことになりました。季都味化というものです。よろしくお願いします。」

「というわけで、今日からうちの部署に配になった、季都さんだ。君の活躍には大いに期待しているよ。君のお父さんには昔からよくしてもらっていたよ。頑張ってくれたまえ。」

「ハイ!ご期待に添えるように精一杯頑張ります。」

盛大な拍手がオフィスに鳴り響く…それは全て私へと向けられたものです。でも私の心はいつだってここにはありません。ここというのは私自身の身体の事です。
いつも私の声は遠くでつぶやくように、囁くようにして私の耳へと流れてくるかのように届きます。何処かに私の一部が置かれてきたままのような……時間の流れが止まったかのように……。


「……はぁーやっと一段落かー。」

私は仕事の一段落を迎えたので、ふぅーと両手を天に伸ばし、ため息をつきました。


「ちょっ、何やってんの?」

「あっ……桜先輩!」

この人は、私の上司の桜咲先輩。私自身とっても頼りにしている人です。桜先輩はスパルタで有名で、先輩を恐れている同期の新入社員は結構いるらしいです。ですが、大雑把だけど体調面の気遣いは人よりも飛び抜けてる、そんな先輩を私は尊敬しています。

「休憩してるぐらいならさっさと仕事終わらせちゃいなさいよ!」

「すみません!」

「あっそれとね……、よいしょっと…。」

ドスン

「えっ……?」

私は自分の机上に目をやると、私の首ぐらいにまで積み重なった大量の資料がありました。

「この資料全部ですか!?」

「新人のうちから働いておかないと、稼げる営業マンにはなれないわよ!」

「…!……私は、別に………。」

「まぁ…あんたにも色々あるんだろうけどさ。そりゃそうだわなぁー。あんだけ親父さんが偉大だったらねぇ〜。」

「え……ええ、まぁ………。……。」

「まぁあんたが何でも背負い込んで我慢することはないと思うよ。あくまであんたはあんただし。」

私の心は今の言葉で少し救われました。今までにも何度も何度も助け舟を出してくださいました。

「がんばんなさいよ。」

「ハイ!」

『がんばんなさいよ』のその一言をかけてくれる人がいるだけで心の支えになってくれているのです。はぁーにしても、これから一層忙しくなりそうです。

私はそれからまっすぐ帰宅しました。私は、仕事の疲れもあって、スーツのままベッドに飛び込みました。そして、眠気のあまりそのままベッドで寝落ちしてしまいました。


ドン

「いったたたた…、あれっ……ここ何処?」

衝撃音と共に、私の頭部に痛みが広がりました。何処かから落ちたようです。でも確か私はベッドでそのまま寝てしまったはずじゃ?

気がつくと私は不思議な空間にいました。ドアが四方八方にいくつもあって、黄色や黄緑の丸い球体がふわふわと浮かんでいました。私は何気なくその扉の中から真ん中の扉を覗いてみました。

「うわー真っ暗だ。」

一歩だけ前へと踏み出した瞬間でした。真っ暗で気がつきませんでしたが、扉の向こうの空間には足場はなくただただ暗黒の空間が広がっているだけだったのです。私は足を滑らせて体制を崩し、暗闇の底に落ちそうになりましたが、何とかドアの敷居に手をかけました。必死に片手でしばらく耐えていましたが、長く持つはずもなく…。私は奈落の底に落ちていくことに抗うわけでもなく、ただ流れに身を任せる他に手立てはなかったのです。

ファサッ

気がつくと今度は花畑の上にいました。見回すと、大きな城のようなものが目と鼻の先に聳え立っていました。その城の前には目線の高さぐらいの立て看板が立って今いました、そこにはこんな内容が書かれていました。

 ご来賓の皆様へのご案内
ここにいらしましたら前方に見えます階段へと進み、そのまま階上へとお進みください。


「え……?階段?」

目線を左右にずらすことなくそのまま奥へと目をやると、確かに前方にはまっすぐ続く階段がありました。今のところ情報量があまりにも少なすぎることから、階段の先へと進めば何かわかるかもしれないと、階上へと突き進んで行きました。