(朝倉小雪……)

名前を心の中で何度も呟く。ペコリとお辞儀をして、恥ずかしそうにしながら席に戻る姿も目が離せなくて、胸がどんどんキュンと音を立てていく。

今まで、こんな気持ちになったことなんてなかった。きっとこんな姿をしているから、いつも消えてしまいたいって思っていたから、こんなにも誰かに胸を高鳴らせるなんてできなかった。

その日、僕は初恋というものを知った。こんな女の子の姿なのに、好きになってしまった。授業中も、夜眠る時も、ずっと朝倉さんのことでいっぱいで、恋ってこんなものなのかと驚く。

でも、一目惚れしたからって僕が朝倉さんに話しかけたりできたわけではなくて、ただ朝倉さんを遠くから見ているだけの日々だった。

朝倉さんは軽音部に入部して、仲間といつも楽しそうに部活をしている。授業が終わるとすぐに飛び出して行っちゃうんだ。僕はそれをいつも見ていた。

(今日も朝倉さん、可愛かったな)

放課後、夕焼けが照らす教室で今日の朝倉さんのことを考えながらかばんを手にする。もう家に帰らないと……。