俺がドイツへ行く前から、『副院長が消化器科の医者を連れてくるらしい。どうやら知り合いの女の子で、家に住まわせるらしい』と話題になっていた。
どんな子が来るんだろうと気になりながら俺はドイツ研修に行ったが、帰ってきてそれが彼女だと知って本当に驚いたし、うれしかった。

3年前あんな別れ方をしてしまって、その後もトラブルに巻き込まれて病院を辞めたらしいと前の病院の仲間から聞いていた。だから、ずっと気になっていて会えるものなら会いたいと思ってもいた。

帰国後初めての出勤日、休憩室で見つけた彼女は救命の杉原先生と楽しそうに話していた。俺が声をかけるとピクンと肩を震わせ、一応挨拶はしたものの俺の方を見ようともしない。
どうやら避けられているらしいとすぐに気づいた。
俺と彼女の過去は決して楽しいものではないし思い出したくもないのかもしれない。それでも、俺はそんなに嫌われるようなことをしたんだろうかと何度考えてみても答えが見つからず、結局俺の方から強引に近づいていくしかなかった。

救命の杉原先生とやたら親しいのも、研修医の塙に懐かれているのも癪に障る。とにかく彼女の態度が面白くなかった。
飲み会に同伴したのも、抱えて救急に駆けこんだのも、俺なりの独占欲の現れだったのかもしれない。
無意識のうちに、俺の中で彼女は忘れられない存在になっていたらしい。