女の先輩があいた手を上げた瞬間、伊月先輩の声が聞こえた。
と思ったら、女の先輩から離れていてその間に大きな背中。
爽やかだけど甘い香りが鼻に届いて気持ちが落ち着く。
「お前、優乃になにした?」
「べ、べつに……」
「叩こうとしただろ。この手はなんだ」
低すぎる伊月先輩の声。
顔は見えないけど怒っているということはわかる。
「だ、だってこの子が要と一緒にいるから」
「そんだけか?」
「ずるいじゃん。だれも要の特別にはなれないのに、この子は……」
「なんでおれは特別をつくったらだめなんだよ。お前に関係あるか?」
「そ、れは……あたしのほうがずっと要のこと好きだったのにずるい……」
「そうか。でも、おれは優乃が好きだ。だから邪魔されたくない」
「うっ……ヒック……」
威勢がよかった女の先輩はボロボロと大粒の涙を流す。
その涙に胸が苦しくなった。
好きって、ドキドキするだけじゃないんだ。