呼んでみても気づかない。

仕方ない。


ゆっくり行こう。


翔ちゃんにあわせようと速めていた足をゆるめる。



「優乃」


ちょうどその時、後ろから声が聞こえたから振り返った。

そこには少し呼吸が乱れて髪も崩れている伊月先輩がいる。



「先輩、おはようございます」

「おはよ」

「走りました?分け目が変わってますよ」

「優乃見つけたから走った」

「え、?」


まっすぐな瞳に声がもれる。

そのあと、この前の先輩を思い出して顔が熱くなった。



「あの、えっと、直させてください」

「ん、お願い」



急にドキドキする心臓を誤魔化そうと提案したけど逆効果だったかも。

わたしの身長にあわせて屈んでくれた先輩。


顔がさっきよりも近い……。


きれいな瞳に見られながら、ゆっくりと手を伸ばして先輩の髪に触れる。

やわらかくてサラサラな先輩の髪を、普段と同じ分け目に流す。