この女が、後に俺と凛々サンにとって害悪な存在になるとは、この時は思いもしなかったんだーー。
「凛〜々サン」
周りの人たちの視線やヒソヒソとした話し声に耐え切れずただ俯き、今にもこぼれ落ちてしまいそうな涙をギリギリで抑えていると、先程助けを求めた電話の主がとても上機嫌で手を振りながらこちらに向かってきた。
「待たせてごめん。ひと、怖かった?」
呆然と彼を見上げるわたしを周りの視線から守るかのようにその腕のなかに包み込んだ。
途端に湧き上がる悲鳴と歓声。
ーーでも。
わたしの心に湧き上がってきたのはそのどちらでもないもの。
怒り。
だった。
ブツッとわたしのなかの何かが切れて、気付いたら王子の股間を勢いよく蹴り上げていた。
「ーーっっっ!!!!!」
声にならない悲鳴を上げた王子は、立っているだけで精一杯と言った様子。
そんな王子にわたしは、
「バカっ!!嫌いっ!!」
そう捨て台詞を吐いてどよめく野次馬たちを尻目にわたしはひとりその場をあとにした。
完全に見世物にされたという確信。
王子はわたしの事を自分の彼女だと周りに見せつけて優越感に浸りたかっただけ。
年上の彼女は、高校生からするとそんなに自慢したいものなのだろうか。
問いたところで答えなんて聞きたくないけれど。
なんにせよ王子からこんな屈辱的な扱いを受けたことが何よりショックで悲しかった。