「こ、こうして迎えに来てくれるのは嬉しいけどさ、先生とかに見つかったらヤバいんじゃないの?」
「心配してくれているの?嬉しいな。でも、大丈夫。そんなヘマはしないから」
思いっ切り屈(かが)んでわたしの顔を覗き込み、にっこりと笑む王子。
「っ、」
年下は例外なく恋愛対象外のはずなのにさっきから心臓の音がうるさい。
あんまり心拍数が上がるのはダメなのに…。
「凛々サン?」
黙りこくったわたしが気になったのか、歩きを止めてまたわたしの顔を覗き込んでくる。
「な、何でもないっ」
「…そう言えば今日も店に来ないの?」
「あー…、うん。ちょっと今月お金が厳しくて、」
ハハハッと渇いた笑いでなんとか誤魔化す。
王子は納得したのかしていないのか分からないけれどそれ以上は突っ込んで来なかったからホッと胸を撫で下ろした。
マンションの部屋の前まで来ると王子は名残惜しそうにわたしの手を離すと、その手でわたし自身を引き寄せ、まるで壊れ物を扱うかのように優しく抱き締めてきた。
「…凛々サンは、何も話してくれないね」
少し掠(かす)れた王子の声にハッとするけれど、何も返す言葉がなかった。
ただ、その代わりに王子のことをギュッと抱きしめ返した。…今はまだ、そうすることしか出来なくて。
「俺、待ってるから…」
「何を?」なんて、訊かなくてもわかるよ。
「うん…。ありがとう」
じゃあ。と王子から離れてわたしが玄関の扉を開けたとき、優しい手が頬に触れ振り返るとフッと影が顔を覆い、熱を持ったザラリとした物がくちびるを撫でた。
「い、い、い、いまっ!!し、し、舌でっ!」
「おやすみ、凛々サン。また明日ね」
顔を真っ赤にして口をパクパクすることしか出来ないわたしを見て満足したのか、王子はニッといたずらっ子のような笑みをこちらに向けて、店長の店を手伝う為にまた夜の街に溶けて行った。