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「いらっしゃいませ、こんばんはぁー」
ピロリンピロリンっと来客を知らせるベルが鳴り、商品の整理をしながら声を張る。
するとベテランの浪人生西川くんがわたしの元へやってくると、
「冨永(とみなが)さん、もう時間だから上がっていいよ」
ほらっと時計を指差した。その指差した方へわたしも顔を上げると22時を回っていて。
「あ、本当だ。じゃあ上がらせていただきます」
「うん。お疲れさま」
「お疲れさまですっ」
客がレジに並んでないのを確認して素早くバックヤードに入り、お店のロゴがデカデカと縫い付けられた上着を脱いで、ロッカーから荷物を出しササッと店を出た。
その店の目の前にあるガードレールに寄り掛かり真っ直ぐこちらを見ているイケメンと眼が合う。
「おつかれ、凛々サン」
ふわりと笑む姿に、通りすがりの女の子達が頬を染めたのが暗い中でもわかった。
「あ、ありがとう」
わたしはまだ慣れなくて何だかこそばゆい。
「帰ろっか」
言うなり差し出された大きな右手を戸惑いながら控え目に握ると、するりと指を絡められあっという間に恋人繋ぎになった。
「お、王子。…恥ずかしいよ。みんな見てる…っ」
「いいの。凛々サンがあまりに可愛いせいで男どもの視線がうるせぇから、凛々サンは俺のものって見せつけてやってるんだから」
…どうしたらそう言う眼線に考えがいくのだろうか。
わたしこそが近くを通る女の子達からアイスピックのような睨みを受けているというのに…。