あの夜から俺は家に帰らず公園で寝泊まりするようになった。着替えとかは朝早く取りに行き必要なものだけを持って家を出た。
母親から『どこにいるの??帰ってきなさい』と再三連絡が返ってくるが全部無視した。
学校にも行かず、バイトだけで生計を立てるようになった。なかなか生活は苦しいものだが親に会わなくていいと思うと心は晴れやかだった。

バイトを掛け持ちしながら俺は死に物狂いで頑張った。そして親からは何も連絡がなくなり、俺は自由を手にした。学校でも陰キャを貫き、友達を作ることなく夏休みを迎えた。休み中にバイトで貯めたお金で家を借りることも出来た。
『1人って最高やな。そういえば夕飯の買い出ししないと』
近くのスーパーまで歩いていくのに結構かかるけど今日はルンルン気分で歩いた。
その時、『岳くんやん!!』と綾奈らしき人が俺の前で手を振ってた。
『お、田城さん』
『ここで何してるん??』
『何って買い物ですよ』
『偉いやん、買い出しなんて』
『だって1人しかいないから買い出ししないと』
『え、まじ?』
『まじ』
『なんかあったん?』
『まあいろいろと』
『てか、今一人暮らしなん?』
『そうだよ』
『学校最近来てないと思ったけど』
『あーバイト掛け持ちしててさ』
俺は学校最近行ってない。理由は簡単。学校よりバイトが優先だからだ。もちろん学校側には伝えてある。
本来なら辞めるという選択肢しかないのだろうが俺の場合は特別扱いって感じになっている。出席日数や授業の単位とかは先生たちが上手く計らってくれている。
なぜこんな感じになったのかというと、俺は全生徒の中で圧倒的学力に長けていたからだ。頭がいい訳ではないが、記憶力に自信がある。だから全部のテスト満点しか取ったことない。家庭環境が不遇なだけにその知識を無くすのが勿体ないと思った先生たちはある条件を提示した。それがテストと自宅学習だけは全部受けるという条件なのだ。
なかなかに掛け持ちしながらの自宅学習は身体が悲鳴をあげるくらいきついものだった。それでもやりがいという感情を手にした。
『岳くん、よく頑張ったね』
と綾奈が頭を撫でてくれた。親にもされた記憶がないのに。とても嬉しい気持ちと泣きたい気持ちが入り混じって顔が歪む。
『うん、辛い』
俺はポロリと心の本音を出してしまった。
『話聞くよ?』
綾奈が優しい口調でそう言った。

俺はこれまでの経緯と過去を洗いざらい話した。
『まあ俺は生きてていい人間じゃないんだ。でも、まだやり残したこともあるし。てか今めっちゃ楽しい』

ずっと聞いていた綾奈が泣いていた。

『え、なんで泣くの?』

『可哀想だなって』

『どういうこと?』

『人生ってそんなに悪くないよ?』
って綾奈が泣きながら俺に向けて言ってきた。

俺の中で人生って居心地の悪い世界だと思って生きてきた。もちろん楽しいことも悲しいこともあることは分かっているつもりだった。
綾奈は自分の過去にとらわれずに前を向いて生きてきたと話してくれた。
『時には逃げたくなることもあった。でもそれじゃダメだと私自身がそう思い上を向いて頑張ってきた』と上を見上げながら俺に向けて語った。
その時、綾奈の過去を知りたいと強く思った。

『私はねずっと優等生として生きてきたの。てか猫を被るって感じ?親にも友達にも先生にも期待されてて、プレッシャーがのしかかって、、』

綾奈はポツポツと自分の想いを話してくれた。