「地元帰って、飯でも食いに行く?」



簡単に自分の脚に付いた砂を払い、水道で手をバシャバシャと洗う椿がわたしに尋ねてくる。

視線が絡まないのをいいことに、流れ落ちる水を見つめながら。



「……帰りたくないな」



独白の後、キュッと水道を閉める音。

そして手を振って水を落とした彼が、まだ乾いていない手でわたしの両頬を包む。触れた手が、すごく冷たく感じた。



「ごめん、どストレートに聞くわ。

……俺のこと誘ってんの? はなび」



間近にある彼の顔に、また脈が乱れる。

そう言われる気はしてたけど、ううん、と否定した。



誘ってない。別に、誘ってなんかないけど。

……そうであっても構わないなんて、とても浅はか。




「もっと一緒にいたいの……」



媚びるようなわたしのそれにも、嫌な顔ひとつしないで抱き締めてくれる椿。

もう既にその体温がひどく安心してしまう意味を、薄々感じてる。



「……だめ?」



まだ、早熟すぎるから。

それに名前をつけるには、早すぎるから。



「だめじゃねえよ」



「ふふっ、よかった」



どうか、待っててほしい。

わたしが自信を持って言える、その時まで。