この前、一緒に歩くときは隣を歩けって私に言ったのに。

どうして今日は私を置いて先に行くの?

「ダン、待って下さい。ね、今何て言いました?」

「だから。ユズは今から俺と付き合うんだよ。2回も言わせんな」

「やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ。ね、ダンってば」

ダンの肩に背負っているカバンをつまんで引っ張ると、ダンが急に立ち止まるから、鼻からダンのカバンに突っ込んでしまった。

「いたたっ。急に止まらないで下さいよぉ、鼻が痛い」

立ち止まったダンが私の方に振り返り、私の鼻を指先でそっと触ってきて。

「ごめん、大丈夫か?」

そう心配してくれるダンの顔が少し赤いような気がした。

「あのな、付き合うって言っても振りだから。俺と一緒にいて、徐々にユズの男に対する免疫をつけようっていうプロジェクトだから」

あ・・・、そう言うことか。

「そっか。びっくりした。急に変なこと言い出すから驚きましたよ」

「あと、ユズさ。俺との会話に敬語使うなよ。恋人同士なら敬語使わないよな」

「恋人同士って・・・嘘なのにそこまで気にしなきゃダメですか?」

「うん、ダメ。敬語はやめて。ね。」

ね、って可愛く言われてしまったから、一応頷いてみせたけど。

なんだろう、この空虚感。