「第88回ピアノコンクールの優勝者は・・・エントリーナンバー23番 本多柚葉さんです」


私は何で自分の名前が呼ばれたのか、一瞬分からなかった。


周りにいた出場者たちが私の肩を叩いたり、おめでとうって言ってくれたりして、やっと状況を理解する。



私・・・優勝したの? 本当に?



優勝した瞬間は嬉しくて涙が出るのかと思ったけど、今ここで起こっていることが現実じゃないように感じて、まるで他人事のよう。


自分の感情が分からなくなってる。頭が真っ白。


「本多柚葉さんにはもう一度演奏をお願いします。どうぞ、ステージへおいで下さい」

司会者が私を紹介してくれて、ステージへ誘導してくれる。

立ち尽くしている私を現実に戻してくれたのは先生。

「さ、柚葉ちゃん。もう一度弾いていらっしゃい。最後だから思い切り弾いてくるのよ。ほら、行ってらっしゃい!」

そう先生に肩を押されて、私はゆっくりとステージに上がる。