台風一過で晴天のこの日、私はピアノコンクールの会場に先生と来ている。
たっくんがまだ来ていないのがちょっと不安だけど、ちゃんと花束を用意して行くから心配するなって連絡が入ったから、私はその花束をステージで貰えるように頑張るだけ。
緊張している私の手を先生がずっと握ってくれている。
それだけでとても安心するの。いつものおまじない。
「さ、もうすぐ出番よ。天国の妹さんに届くように頑張って弾いてきなさい」
「はい」
先生は私の両肩をポンと叩き、エールを送ってくれた。
私のエントリー番号と名前が紹介されて、私は壇上のピアノへ向かう。
ピアノに指を添えた瞬間、それまで不安に思っていた気持ちはどこかへ消えて、
『香梨奈ちゃん、聴いていてね。最後までしっかり弾くからね』
そう心で念じて、小さな息を吐く。