先生はそんな気持ちならいいピアノは弾けないだろうから今回は見送りましょうって言ってくれたんだけど、先生の隣でその話を聞いていたたっくんが、

「柚葉、絶対にコンクールに出場しなきゃダメ。事情は分かったけど、柚葉のピアノを天国にいるダンの妹に届けてあげて。柚葉のピアノでダンの妹を送ってあげて。柚葉にはそれしかできないでしょ」

「たっくん。でもね・・・」

「でもねじゃないよ、柚葉。もし柚葉が出場しなかったらダンがどう思う?自分のせいだって負い目に感じるはずだよ。そんなのダンもダンの妹も嬉しくないよ。ね、柚葉」

「そうかも知れないけどさ。気持ちがピアノに向かないの」

「柚葉はピアノ何年習ってるの? まだ一度も俺に勝ったことないでしょ。次のコンクールは二年後だよ。柚葉はもうその頃は受験でコンクールどころじゃないはずだよね。今回が最後なんだよ。柚葉、お願いだから出場して」

どうしてそこまでたっくんが強く言うのか分からないよ。