その車の中で親父に聞かされたこと。
「暖、香梨奈は次に発作が出たら覚悟するようにって言われていたんだ。今回の退院は最後に家で過ごしたいって言う香梨奈の希望でな。香梨奈も分かっていたんだよ。暖には言わなくてすまなかったな」
「はぁ? なんだよ、それ! 聞いてねぇよ、そんなこと。親父、嘘つくなよ。ふざけんなよ。なんだよ、それ・・・」
俺は手に持っていたスマホを勢いよく車のダッシュボードに叩きつけた。
「発作って言っても、まだ大丈夫なんだろ? また入院したら元気になるんだろ。そうだろ、親父」
俺は運転している親父の顔を見て、それ以上言葉を発することができなかった。
親父が泣いていたんだ。運転しながら泣いているんだ。
そして香梨奈に感謝とお別れの言葉を伝えられることもなく、香梨奈は旅立った。