ダンがナースステーションに聞きに言ってくれている間、小児科の遊び場のような所で子供たちに絵本を読んであげている女の人のことを私は見ていた。
その人が私に気付いて、手招きしてくる。
「こんにちは。一緒に絵本読んであげない?」
その女の人が私に絵本を一冊手渡してきて、
「良かったら、お願いね」
そう言ってニッコリと笑う。その笑い顔がとても可愛くて、つい見とれてしまった。
その人は『結城芽衣』と書いてあるスタッフカードを下げている。
結城さんってことは、この人もここの病院の人なんだ。
「上手に読めるかな。私、あっちのピアノなら弾けるんですけど」
「あら、それは凄いわ。じゃ、ピアノをお願いしようかな。病院だから小さい音しか出ない設定になっているんだけど、聴かせてくれる?」
「はい。童謡でいいですか?」
「うん、ありがとう。みんな、お姉ちゃんがピアノ聴かせてくれるから、集まって」
その広場にいた数人の子供がピアノの前に集まってきて、ワクワクした表情で私のピアノを待っている。
私は童謡を2曲弾いて、歌を知っている子はピアノに合わせて一緒に歌ってくれた。
こんなに小さい子供たちが何かの病気で入院しているなんて。
ほんの少しでも私のピアノで癒せたならいいのだけど。
ふっと気付くとダンがナースステーションの前から私を見ていて、音を出さずに拍手をしてくれている。