「なに? なんで蓋閉めた? 早く食わせろ」

「えっと、今日は空のお弁当箱を持ってきちゃった。中身入ってないや」

顔を赤くしながら、すぐ分かる嘘をダンに言ってこの場を切り抜けようとしたけど、ダンが何も言わずに私を直視している。

「そんなに見ないで。お弁当ないもん。ごめんね。ああ、私も購買で買って来なきゃ」

「・・・ユズ。ちゃんとお弁当入ってるだろ。なんでそんな嘘をつく?」

「えっと、今日はだめなの。無理なの」

「・・・ユズ。お母さんの作ってくれたお弁当なんだろ。無駄にすんなよ」

お母さんの作ってくれたお弁当なら良かったの。

どうして今日に限って卵焼きを作っちゃったんだろう、私。

「もういいよ。俺には食わせたくないんだな。いいよ。ユズのケチ」

「なっ! ケチってなによ。違うの。あの、本当はね」

「ん、なに?」

ダンは私が話す言葉を待っていてくれる。

「今日ね、卵焼きだけ私が作ってね。それで・・・失敗しちゃったの」

「なんだ、そんなことか。別にいいだろ。卵にワサビ入れて焼いたとかじゃなければ、ちゃんとした食べ物だろ」

「そんなことしないよ。バカにして。味は保証できるもん。でも形がね」