「伊織さんに言われた事なんて真に受けていませんから、安心して下さい…」

「は?」

碧人さんが横を向いたのが、風の向きで何となく分かった。
けれども下を向いたまま顔を上げる事が出来ない。

どんな顔をしているのか見るのが怖くて。 恋愛に憶病なタイプではなかった。それはもしかしたら今まで人を本気で好きになった事がなかったからかもしれない。

本当に人を好きになると、相手の一挙一動が気になって仕方がないんだ…。そんな基本的な事すら知らなかった。

「藤枝さんから聞きました。碧人さんとやり直すかもって。
だから、誤解とかしていませんからご安心ください。
伊織さんは馬鹿…天然だから突拍子もない事を言う人だって桃菜は分かっていますから」

「はぁ?どうして俺が莉々子とやり直すって言うんだよ?!」

「だって!!藤枝さん、私が碧人さんの家に居候になっている事知ってたもん!
藤枝さんに桃菜の事ベラベラと喋ってるんでしょう?!
すごぉーく仲が良いんでしょうね?!」

「何言ってんだ?俺は桃菜が家に居る事なんて莉々子に話してない。
それに莉々子とはプライベートでも会っていない。
あくまでも仕事上の付き合いだ」