二人目は、T市内にあるマンモス高校で知られている共学の私立P高校に通っている

女子で、背は私より低く150cmくらいで、体型はゴリゴリに痩せており、前歯

が異様に突出していた。彼女も私と同じくらいのロングヘアで、いつもツインテ―

ルに結わえて紫のリボンで結んでいた。彼女の高校の制服は臙脂色で一際目立って

いた。彼女はゴリゴリ痩せしているので、制服のブレザーが大きいのかかなりダボ

ついており、駅の人込みの中だとまるで臙脂色の制服だけがそのまま動いているよ

うに見えた。そんな彼女を私たちは「出っ歯」と呼んでいた。この出っ歯もホーム

から譲二君を熱い視線で追っており、車両のドアが開いたとたんにピュ―と鉄砲玉

のように飛び込み、譲二君に接近してくる。出っ歯も「あなたが好きなの!」と、

言わんばかりの熱視線を送り、まるで譲二君にアピールをしているように見えた。

ホームへ降りた時も駅の構内では譲二君のすぐ後ろに近づいて歩いていた。譲二君

の後ろに金魚の糞のごとくピッタリとくっついて歩く出っ歯の臙脂色ブレザーを見

るたびに私はいつもムカついていた。

(出っ歯!お前も邪魔じゃー!このブスめが!)

出っ歯も私が譲二君に好意を持っていることに気付いているのか、譲二君の隣位置

をキープしているときはこれ見よがしに「いいでしょ!」といった勝ち誇った表情

を浮かべて私の方を見ていた。その表情を見た途端、私の中で悔しさと闘争心が更

に芽生えてきた。ギョロ同様たかが譲二君の隣争いだけだが、「コイツらに負けて

たまるか!」と闘志が湧いていた。

このように車両というリングの中で、譲二君をめぐって私、ギョロ、出っ歯のブス

三人による低レベルの戦いが毎朝登校時に繰り広げられていた。