鬼軍曹から注意を受けても私の頭の中は石家先生と一緒にいた時のことがグルグルと回って離れなかった。そんな日々を過ごしていたある日、
「石家先生の送別会を兼ねて病棟の忘年会を12月1○日、時間は18:00からする予定なので、夜勤者以外の人は出席してくださいね!」
産婦人科の宴会部長である米倉主任が朝礼で言ってきた。
「先生達も参加してくださいね!」
ナースステーションの奥にある机でカルテ記入をしている喜屋武教授に向かって米倉主任が大きな声で言ってきた。
「えっ?忘年会?」
喜屋武教授が顔を上げて聞いてきた。
「そう、今度は病棟の忘年会だよ先生。それと石家先生の送別会を兼ねてするから声かけといてくれる?」
「わかった、石家に声をかけておく。」
喜屋武教授はそう言ってまたカルテ記入を始めた。
(先生の送別会か……みんな周りにいるから思うように先生には近づけないかな……)
送別会には行きたいけど、たぶん石家先生の周りには米倉主任とか北島さんとか、高木さんや田島先輩とか、諸先輩方に囲まれてしまうからまた近くに行ってお話をするのは難しいのかなと考えていた。
(それでも、石家先生と同じ時間が過ごせるのであれば参加したい!忘年会当日の1○日は夜勤明けだが、忘年会には行ける!もしもあのときの言葉が本心から出たのならば、もっと近づきたい!)
私の顔は自然と口角が上がりニヤついた。幸い、夜勤者3名以外の職員はよほどの用事がない限りほぼ強制的に参加となった。
忘年会当日、その日は深夜勤務で朝は眠気と戦いながら検温や配薬、日勤リーダーへ申し送りをこなし、終了早々に病棟を出た。
家に帰り着いて軽くシャワーを浴びた後、すぐにベッドへ入って仮眠をとった。送別会は18:00からスタートとのことで、17:00頃までに起きて準備をすれば間に合うと考え、16:50に起きることにして目覚まし時計を設定した。しかし、深夜勤務開けの疲労で熟眠し、ベッドから起きたのは17:10を過ぎていた。ベッドから急いで起きて準備を開始した。黒のニットワンピースに黒タイツに着替え、コートはおなじみのグレーのピーコートを羽織り、茶色の皮のポシェットを持って1階玄関まで降りた。
「これから職場の忘年会で帰り遅いから先寝ててね!」
私は台所にいる母親に声をかけた。
「あっそう。気を付けて行ってらっしゃい!」
台所から母親が大きな声で言ってきた。
私は玄関の鍵を閉め、車に乗り込んでエンジンをかけた。送別会はP町とS市の境目にある小さなパブであった。米倉主任の知り合いが経営しているらしく、その関係で今回病棟忘年会兼送別会会場として貸し切りで使わせてもらうことになったとのことだ。帰宅ラッシュの時間でT駅前の道がかなり混んでいたのもあり、会場であるパブに到着したのは18:30を過ぎていた。
「遅れてすみませ~ん!」
私はパブのドアを開けながらお詫びを言った。パブの内装は紫色の絨毯に白い壁でフロア中央には茶色のテーブルが4台並んでおり、テーブルの両脇をワインレッドのソファーが左右並んで置かれていた。一番右奥に米倉主任とその対面の左奥に北島さんが座っていた。そこから並んで木村さんや平田さん、山田さんら中堅看護師達が並び、一番手前の右側に広瀬が座っていた。テーブルにはビール中ジョッキや赤ワインが入ったグラス、オードブルと野菜サラダ、ピザが所是狭しと並んでいた。
「遅いじゃねーか!寝過ごしたのかぁ?」
米倉主任が大声で言ってきた。相変わらず顔は紫のアイシャドーに真っ赤な口紅を塗りたぐっており、黒地に銀のラメがガンガン入ったセーターに真っ赤なパンツ姿で一際目に入った。既に何杯かお酒が入っているのか、顔は真っ赤になっていてほぼ出来上がった状態であった。
「いや、まぁ……」
米倉主任に圧倒されてしまい、入り口でつっ立っていると、北島さんが声をかけてきた。
「丸田さん、早く座りなよ~。飲み物は何にする?」
「あ、私車で来たのでウーロン茶でお願いします。」
北島さんが奥の厨房がある方向に向かって「ウーロン茶お願いしま~す!」と頼んでくれた。私は、既に来ていた広瀬の隣に腰を下ろした。すぐに年配の派手な化粧をしてゴールドの大きめのネックレスとイヤリング、紫のラメ入りワンピースを着た女性がウーロン茶を運んできてくれた。どうやらこのパブの女主人らしい。私はウーロン茶で乾杯をして一口飲んだ。周りを見渡すと、まだ石家先生達は来ていなかった。
(なんだぁ~。先生まだ来ていないんだ……)
パブに来てから30分以上経過をした頃だった。
「いやぁ~お疲れさん!」
パブの入り口ドアが開き、喜屋武教授に連れられて石家先生が入ってきた。石家先生は赤いダウンジャケットにチノパンツといったいつもと同じ姿で、「いや~遅れてすみません。」と言わんばかりの苦笑いを浮かべながら入ってきた。
「待ってたよ~!さ、早くこっちに来て!」
米倉主任はくっきり笑顔で先生達に手招きをして自分の両隣に座らせた。そしてすぐに生ビールを中ジョッキで注文し「カンパ~イ!」と大声で言いながら先生達と中ジョッキのビールを一気に飲み干していた。
(うわぁ~席が離れ離れになっちゃった……今回無理かなぁ……)
石家先生が米倉主任の隣に着座したところでちょっと今回は近づけそうにもないかなと悟り、残念な思いが心の中を駆けめぐった。しかし、
(酔っぱらってでもいいからまたあの時みたいに大接近したい……)
そんな思いがだんだん強くなっていくのを感じた。
時間が経つにつれて皆の酒量がどんどん増え、パブの中はガハハガハハと大爆笑の声が響き渡り、酔っ払い達の巣窟と化した。米倉主任も北島さんも喜屋武教授も、真っ赤な顔に座った目で美味しそうにワインやビールを煽っていた。田島先輩も宴会に来ていたが、途中で彼氏が迎えに来たとかなんとかで帰ってしまった。他の諸先輩方も美味しそうにビールを飲み談笑していた。石家先生は、米倉主任の隣でずっと絡まれていた。先生もビールを中ジョッキで3杯と赤ワインを2杯くらいは飲んでおり、煙草を吹かしながら真っ赤な顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
時計の針が21:30を回った。
「では、石家先生、4か月間お疲れ様でした~!」
米倉主任が大きな花束を抱えて真っ赤な顔をニンマリしながら石家先生に渡した。
「石家先生からみんなへ何か一言お願いしま~す!」
米倉主任が真っ赤な顔で石家先生に一言促した。
「え~みなさん、今日はありがとうございました~……」
石家先生は花束を抱え、真っ赤な顔をクシャっと笑顔にしながらベロベロ口調であいさつをした。
「ではみなさ~ん、この辺でお開きにしま~す!お疲れさまでした~!会費は一人1000円で~す!二次会に行く人はご自由にどうぞ~!」
米倉主任が終わりの挨拶をして、送別会兼忘年会はお開きとなった。会費1000円を主任に支払い、私たちはパブの外に出た。
「石家先生の送別会を兼ねて病棟の忘年会を12月1○日、時間は18:00からする予定なので、夜勤者以外の人は出席してくださいね!」
産婦人科の宴会部長である米倉主任が朝礼で言ってきた。
「先生達も参加してくださいね!」
ナースステーションの奥にある机でカルテ記入をしている喜屋武教授に向かって米倉主任が大きな声で言ってきた。
「えっ?忘年会?」
喜屋武教授が顔を上げて聞いてきた。
「そう、今度は病棟の忘年会だよ先生。それと石家先生の送別会を兼ねてするから声かけといてくれる?」
「わかった、石家に声をかけておく。」
喜屋武教授はそう言ってまたカルテ記入を始めた。
(先生の送別会か……みんな周りにいるから思うように先生には近づけないかな……)
送別会には行きたいけど、たぶん石家先生の周りには米倉主任とか北島さんとか、高木さんや田島先輩とか、諸先輩方に囲まれてしまうからまた近くに行ってお話をするのは難しいのかなと考えていた。
(それでも、石家先生と同じ時間が過ごせるのであれば参加したい!忘年会当日の1○日は夜勤明けだが、忘年会には行ける!もしもあのときの言葉が本心から出たのならば、もっと近づきたい!)
私の顔は自然と口角が上がりニヤついた。幸い、夜勤者3名以外の職員はよほどの用事がない限りほぼ強制的に参加となった。
忘年会当日、その日は深夜勤務で朝は眠気と戦いながら検温や配薬、日勤リーダーへ申し送りをこなし、終了早々に病棟を出た。
家に帰り着いて軽くシャワーを浴びた後、すぐにベッドへ入って仮眠をとった。送別会は18:00からスタートとのことで、17:00頃までに起きて準備をすれば間に合うと考え、16:50に起きることにして目覚まし時計を設定した。しかし、深夜勤務開けの疲労で熟眠し、ベッドから起きたのは17:10を過ぎていた。ベッドから急いで起きて準備を開始した。黒のニットワンピースに黒タイツに着替え、コートはおなじみのグレーのピーコートを羽織り、茶色の皮のポシェットを持って1階玄関まで降りた。
「これから職場の忘年会で帰り遅いから先寝ててね!」
私は台所にいる母親に声をかけた。
「あっそう。気を付けて行ってらっしゃい!」
台所から母親が大きな声で言ってきた。
私は玄関の鍵を閉め、車に乗り込んでエンジンをかけた。送別会はP町とS市の境目にある小さなパブであった。米倉主任の知り合いが経営しているらしく、その関係で今回病棟忘年会兼送別会会場として貸し切りで使わせてもらうことになったとのことだ。帰宅ラッシュの時間でT駅前の道がかなり混んでいたのもあり、会場であるパブに到着したのは18:30を過ぎていた。
「遅れてすみませ~ん!」
私はパブのドアを開けながらお詫びを言った。パブの内装は紫色の絨毯に白い壁でフロア中央には茶色のテーブルが4台並んでおり、テーブルの両脇をワインレッドのソファーが左右並んで置かれていた。一番右奥に米倉主任とその対面の左奥に北島さんが座っていた。そこから並んで木村さんや平田さん、山田さんら中堅看護師達が並び、一番手前の右側に広瀬が座っていた。テーブルにはビール中ジョッキや赤ワインが入ったグラス、オードブルと野菜サラダ、ピザが所是狭しと並んでいた。
「遅いじゃねーか!寝過ごしたのかぁ?」
米倉主任が大声で言ってきた。相変わらず顔は紫のアイシャドーに真っ赤な口紅を塗りたぐっており、黒地に銀のラメがガンガン入ったセーターに真っ赤なパンツ姿で一際目に入った。既に何杯かお酒が入っているのか、顔は真っ赤になっていてほぼ出来上がった状態であった。
「いや、まぁ……」
米倉主任に圧倒されてしまい、入り口でつっ立っていると、北島さんが声をかけてきた。
「丸田さん、早く座りなよ~。飲み物は何にする?」
「あ、私車で来たのでウーロン茶でお願いします。」
北島さんが奥の厨房がある方向に向かって「ウーロン茶お願いしま~す!」と頼んでくれた。私は、既に来ていた広瀬の隣に腰を下ろした。すぐに年配の派手な化粧をしてゴールドの大きめのネックレスとイヤリング、紫のラメ入りワンピースを着た女性がウーロン茶を運んできてくれた。どうやらこのパブの女主人らしい。私はウーロン茶で乾杯をして一口飲んだ。周りを見渡すと、まだ石家先生達は来ていなかった。
(なんだぁ~。先生まだ来ていないんだ……)
パブに来てから30分以上経過をした頃だった。
「いやぁ~お疲れさん!」
パブの入り口ドアが開き、喜屋武教授に連れられて石家先生が入ってきた。石家先生は赤いダウンジャケットにチノパンツといったいつもと同じ姿で、「いや~遅れてすみません。」と言わんばかりの苦笑いを浮かべながら入ってきた。
「待ってたよ~!さ、早くこっちに来て!」
米倉主任はくっきり笑顔で先生達に手招きをして自分の両隣に座らせた。そしてすぐに生ビールを中ジョッキで注文し「カンパ~イ!」と大声で言いながら先生達と中ジョッキのビールを一気に飲み干していた。
(うわぁ~席が離れ離れになっちゃった……今回無理かなぁ……)
石家先生が米倉主任の隣に着座したところでちょっと今回は近づけそうにもないかなと悟り、残念な思いが心の中を駆けめぐった。しかし、
(酔っぱらってでもいいからまたあの時みたいに大接近したい……)
そんな思いがだんだん強くなっていくのを感じた。
時間が経つにつれて皆の酒量がどんどん増え、パブの中はガハハガハハと大爆笑の声が響き渡り、酔っ払い達の巣窟と化した。米倉主任も北島さんも喜屋武教授も、真っ赤な顔に座った目で美味しそうにワインやビールを煽っていた。田島先輩も宴会に来ていたが、途中で彼氏が迎えに来たとかなんとかで帰ってしまった。他の諸先輩方も美味しそうにビールを飲み談笑していた。石家先生は、米倉主任の隣でずっと絡まれていた。先生もビールを中ジョッキで3杯と赤ワインを2杯くらいは飲んでおり、煙草を吹かしながら真っ赤な顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
時計の針が21:30を回った。
「では、石家先生、4か月間お疲れ様でした~!」
米倉主任が大きな花束を抱えて真っ赤な顔をニンマリしながら石家先生に渡した。
「石家先生からみんなへ何か一言お願いしま~す!」
米倉主任が真っ赤な顔で石家先生に一言促した。
「え~みなさん、今日はありがとうございました~……」
石家先生は花束を抱え、真っ赤な顔をクシャっと笑顔にしながらベロベロ口調であいさつをした。
「ではみなさ~ん、この辺でお開きにしま~す!お疲れさまでした~!会費は一人1000円で~す!二次会に行く人はご自由にどうぞ~!」
米倉主任が終わりの挨拶をして、送別会兼忘年会はお開きとなった。会費1000円を主任に支払い、私たちはパブの外に出た。