翌朝、日勤の私はまたまた遅刻寸前でナースステーションへ滑り込み、鬼軍曹北島さんにこっぴどく怒られた。石家先生は、昨晩の出来事がなかったかのようにいつもと変わらず私にも、他の職員にも爽やかな笑顔を振り撒いていた。
「先生、昨日はお疲れ様でした。」
私は周囲に他の職員がいないことを確かめながら病棟の廊下を歩いていた石家先生に近づいてそっと声をかけた。
「おっ、丸ちゃんお疲れ様です。いやぁ~昨日はつい飲みすぎちゃって……」
石家先生は少し照れたような表情で言った。
「そうですよね~。先生かなり酔っていましたよ~。」
私はクスっと笑いながら言った。
「ところでさぁ~僕、みんなに何か失礼なこと言ってなかったかな?」
「えっ?」
「昨日飲みすぎて忘年会からのこと覚えていないんだよ~」
石家先生は罰悪そうに言ってきた。
「えっ?お、覚えてないんですか?」
私は目をカッと見開き石家先生を見た。
「そうなんだよ~。僕、みんなに失礼なこと言っていなかったかな?」
石家先生は目尻を下げ、ちょっと困ったような表情を浮かべながら私に聞いてきた。
(もしかして先生、あの夜のこと覚えていないのかな……)
「だ、大丈夫ですよ~。忘年会が終わってから先生の寮の部屋まで送り届けましたけど、べ、別に何もなかったですよ。」
(本当はキスしたなんて、言えないよ……)
私は慌ててその場に合わせて言った。胸はドキドキと高鳴っていた。
「そうか……いやぁ~いつのまにか部屋で寝ていたから誰かが送ってくれたんだなぁと思って。丸ちゃんだったんだね!ありがとう!」
石家先生は謎が解けたのようにニッコリ笑顔でお礼を言った。
「ところで先生、二日酔いは大丈夫ですか?」
私は石家先生の顔を覗き込むようにして聞いた。
「あぁ、何とかね。ちょっと頭が痛いけど。」
石家先生は自分の右手を額に当てて頭痛のジェスチャーをしながら苦笑いをした。
「大丈夫ですか?」
私は先生の顔を覗き込み少し不安そうに聞いた。
「うん大丈夫。まあじきに治ると思うよ。」
「そうですか……あ、先生、また一緒に飲みに行ってもいいですか?」
私は胸の動悸を感じつつも気を取り直して笑顔で先生の顔を見て言った。
「ああ、いいよ。行こ行こ!」
石家先生も爽やか笑顔で返事をした。
「では、また連絡しますね!」
私は笑顔で言った。
「わかった。じゃあね。」
石家先生は右手を振って笑顔でその場を去った。
(先生、あの夜、あのときのこと全く覚えていないんだな……じゃああのとき私のことイイなと思っていたと言っていたあの言葉はなんだったんだろう……あのときのキスはなんだったんだろう……)
あの日以来、私はあのときのことを思い出しながら考えていた。普段の業務にも身が入らず、その都度米倉主任や鬼軍曹北島さんに喝を入れられた。
「ねぇ、あんた大丈夫?何かあったの?」
鬼軍曹北島さんが、眉間に皺を寄せた顔をして温度版記入をしている私の顔を覗き込んだ。
「えっ?何がですか?」
いきなり顔を覗き込んできた北島さんに私は驚いて聞いた。
「あんた、何だか業務に集中していない様だし、どこか上の空な感じがするんだよね~。」
北島さんが呆れた感じで言ってきた。
「そ、そうですか?いや~別にそんなことないですけど……」
私はすっとぼけた感じを必死に演出しながら答えた。
「そうかぁ~?なんだか『私悩んでますぅ~。』な~んて顔しているけどね。ねぇ、もしかしてあんた彼氏ができたの?」
北島さんは私に近づき、口元をニヤつかせて聞いてきた。
「そ、そんな。か、彼氏なんていないですよー。」
私はドキッとしつつも必死に冷静さを取り繕いつつ、苦笑いをしながら答えた。
「あっそうなんだ~。ま、でも業務に集中して取り組まないと事故になったら取返しがつかないからね!気をつけてよ!頼むよ!」
西島さんは私の左肩をドンドンと強く叩きながら吐き捨てるように言ってその場を去った。
「すみません。気を付けます……」
私はムッとした顔をしながら頭を下げた。確かに石家先生のことを考えまくって業務に集中できていなかったけど、北島さんに不意を突かれたのと、心を見透かされたようでなんだか嫌な感じがした。確かに業務に集中しないと大事故になりかねないので、北島さんが注意してくれたことは正しいし感謝すべきことなのだが、その時の私はそのことに気付かず感謝どころか、不快に感じた。
「先生、昨日はお疲れ様でした。」
私は周囲に他の職員がいないことを確かめながら病棟の廊下を歩いていた石家先生に近づいてそっと声をかけた。
「おっ、丸ちゃんお疲れ様です。いやぁ~昨日はつい飲みすぎちゃって……」
石家先生は少し照れたような表情で言った。
「そうですよね~。先生かなり酔っていましたよ~。」
私はクスっと笑いながら言った。
「ところでさぁ~僕、みんなに何か失礼なこと言ってなかったかな?」
「えっ?」
「昨日飲みすぎて忘年会からのこと覚えていないんだよ~」
石家先生は罰悪そうに言ってきた。
「えっ?お、覚えてないんですか?」
私は目をカッと見開き石家先生を見た。
「そうなんだよ~。僕、みんなに失礼なこと言っていなかったかな?」
石家先生は目尻を下げ、ちょっと困ったような表情を浮かべながら私に聞いてきた。
(もしかして先生、あの夜のこと覚えていないのかな……)
「だ、大丈夫ですよ~。忘年会が終わってから先生の寮の部屋まで送り届けましたけど、べ、別に何もなかったですよ。」
(本当はキスしたなんて、言えないよ……)
私は慌ててその場に合わせて言った。胸はドキドキと高鳴っていた。
「そうか……いやぁ~いつのまにか部屋で寝ていたから誰かが送ってくれたんだなぁと思って。丸ちゃんだったんだね!ありがとう!」
石家先生は謎が解けたのようにニッコリ笑顔でお礼を言った。
「ところで先生、二日酔いは大丈夫ですか?」
私は石家先生の顔を覗き込むようにして聞いた。
「あぁ、何とかね。ちょっと頭が痛いけど。」
石家先生は自分の右手を額に当てて頭痛のジェスチャーをしながら苦笑いをした。
「大丈夫ですか?」
私は先生の顔を覗き込み少し不安そうに聞いた。
「うん大丈夫。まあじきに治ると思うよ。」
「そうですか……あ、先生、また一緒に飲みに行ってもいいですか?」
私は胸の動悸を感じつつも気を取り直して笑顔で先生の顔を見て言った。
「ああ、いいよ。行こ行こ!」
石家先生も爽やか笑顔で返事をした。
「では、また連絡しますね!」
私は笑顔で言った。
「わかった。じゃあね。」
石家先生は右手を振って笑顔でその場を去った。
(先生、あの夜、あのときのこと全く覚えていないんだな……じゃああのとき私のことイイなと思っていたと言っていたあの言葉はなんだったんだろう……あのときのキスはなんだったんだろう……)
あの日以来、私はあのときのことを思い出しながら考えていた。普段の業務にも身が入らず、その都度米倉主任や鬼軍曹北島さんに喝を入れられた。
「ねぇ、あんた大丈夫?何かあったの?」
鬼軍曹北島さんが、眉間に皺を寄せた顔をして温度版記入をしている私の顔を覗き込んだ。
「えっ?何がですか?」
いきなり顔を覗き込んできた北島さんに私は驚いて聞いた。
「あんた、何だか業務に集中していない様だし、どこか上の空な感じがするんだよね~。」
北島さんが呆れた感じで言ってきた。
「そ、そうですか?いや~別にそんなことないですけど……」
私はすっとぼけた感じを必死に演出しながら答えた。
「そうかぁ~?なんだか『私悩んでますぅ~。』な~んて顔しているけどね。ねぇ、もしかしてあんた彼氏ができたの?」
北島さんは私に近づき、口元をニヤつかせて聞いてきた。
「そ、そんな。か、彼氏なんていないですよー。」
私はドキッとしつつも必死に冷静さを取り繕いつつ、苦笑いをしながら答えた。
「あっそうなんだ~。ま、でも業務に集中して取り組まないと事故になったら取返しがつかないからね!気をつけてよ!頼むよ!」
西島さんは私の左肩をドンドンと強く叩きながら吐き捨てるように言ってその場を去った。
「すみません。気を付けます……」
私はムッとした顔をしながら頭を下げた。確かに石家先生のことを考えまくって業務に集中できていなかったけど、北島さんに不意を突かれたのと、心を見透かされたようでなんだか嫌な感じがした。確かに業務に集中しないと大事故になりかねないので、北島さんが注意してくれたことは正しいし感謝すべきことなのだが、その時の私はそのことに気付かず感謝どころか、不快に感じた。