12月に入りD病院職員全体の忘年会がT市内の観光ホテルを貸し切って開催される予定とのことであった。
「12月○日の18:30よりT観光ホテルで病院忘年会が開催されることになりました。各病棟で出席者を募っています。出席したい方は私に言ってください。病院前に送迎のバスが来るそうです。」
朝礼で前田師長が職員の前で話した。
「私出席しようかなぁ。」
高木さんが目をパッチリさせて一番に言ってきた。
「広瀬さん、松田さん、丸田さん。あなたたちも行ってみたら?ねぇ高木さん、新人さんたちも一緒に連れて行ってあげて。」
前田師長は、私たちの出席有無も確認せず高木さんに向かって言った。
「は~い。ていうかその前にあなたたち忘年会行けるの?」
高木さんは私たち3人の顔をのぞきながら聞いてきた。
「はい……」
私と松田は小さい声で返事をした。忘年会当日私と松田は日勤の予定になっていた。
「私は夜勤なので……」
広瀬は当日準夜勤の予定なので当然欠席となった。
(忘年会かぁ……恐ろしいなぁ……あの高木さんと一緒に行くのなんて恐ろしいよ……)
私は忘年会参加に対して少し恐怖を感じていた。しかも高木さんと一緒に出席となると、あの時看護部旅行で宴会の際、おもいっきり片乳はみ出しても平気で座敷内を闊歩している彼女の乱れた姿を思い出して更に恐怖が増した。勤務の始まりというのに私と広瀬は少しテンションが下がっていた。そのときだった。
「おはようございま~す。」
喜屋武教授と石家先生がナースステーションに入ってきた。
「喜屋武教授、石家先生、今度病院の忘年会があるんですけど、先生達も参加しますか?」
前田師長が先生達を見るなりいきなり声をかけた。
「えっ?忘年会?いつだね?」
喜屋武教授が少し驚いた表情で聞いてきた。
「12月〇日の18:30からで、場所はT観光ホテルです。」
「そうか~。じゃあ出席しようかな。」
喜屋武教授はすんなり返答した。
「石家君も出席しようよ。楽しいぞ。」
喜屋武教授は右隣りにいた石家先生に声掛けた。
「あ、そうですね。でも当直は?」
「それは沼尻にやらせればいいよ。私の方から言っておく。」
「あ、そうですか……でも……」
「大丈夫!それにせっかくD病院に研修で来たんからねぇ。こっちに来た記念に行こうじゃないか。」
「じゃあ……わかりました。よろしくお願いします。」
石家先生は少し遠慮がちに返答をした。
(やったぁ!石家先生が出席するんであれば行かなきゃ!楽しみ!ありがとう師長!喜屋武先生!それにしても喜屋武先生、あんなこと言って大丈夫かなぁ?あの沼尻先生とバトらなきゃいいけど……)
下がり気味であった私のテンションは一気に上がってきた。忘年会出席で喜屋武教授と沼尻先生が喧嘩になってしまうのではないかと少し気がかりにはなったけど、石家先生と一緒に忘年会に行けるとなると嬉しさの方が勝った。
(忘年会に行くときの着るものを考えなきゃ!)
その日私は忘年会という場所で石家先生と一緒の時間を過ごせる楽しみと、当日のオシャレについて考えを巡らせながら、ニヤつき顔で日勤をこなした。
忘年会当日となり、私は朝からテンションが上がっていた。前日にクローゼットから黒の大きな襟が付いたAラインで膝丈のワンピースと黒タイツ、父親に買ってもらったハイブランドの黒のハーフコート、母親から譲り受けた黒皮のポシェットと、全身黒ずくめで地味だが、自分なりにオシャレと思い、自信を持って用意をした。足元も当然黒皮のショートブーツを用意した。
その日の日勤は朝からテンション高めで張り切っていた。卵巣嚢腫の手術準備と手術室搬送、術後バイタルサイン測定、担当病室の状態確認、点滴準備、記録とハードだけどウキウキした気持ちでこなしていった。
日勤終了となり時間は17:00を回っていた。
「じゃあ、忘年会に出席する人は遅れないで行ってくださいね。」
前田師長が声をかけてきた。送迎バスは17:30から職員玄関前に待機しているとのことだった。高木さんの他に木村さん、谷中さん、山田さん、そして後から米倉主任が出席することになった。前田師長は「私ちょっと用事があるので……」と言って欠席となった。なんともわざとらしい感じであった。高木さん達は送迎バスに乗って会場へ向かった。私と松田は私の車に乗って会場入りすることとなった。時間になって、軽い足取りで更衣室へ向かい、着替えて職員玄関を出て駐車場へ向かった。松田はグレーのモヘアがかかったタートルネックセーターに黒色の膝下丈フレアスカート、足元は黒色のパンプスでキャメル色のロングコートを羽織っており、上品な感じを醸し出していた。松田は普段の通勤スタイルもとてもオシャレでデニム姿もスラリとしていてとてもカッコ良かった。そんな松田のスタイルに私も憧れを抱いていた。
(有紀さんはいいなぁ~。大人な女性って感じでステキだよなぁ~。それに比べて私は……何てダサいんだろう……)
松田の上品な着こなしをしみじみ見た私は、自分のスタイルの悪さとセンスのなさに落ち込んだ。
車に乗り込み、いざT観光ホテルへ向かう道中、私たちは主に仕事の話で盛り上がった。会話が一息ついたとき、松田が私の方を向いてふと言ってきた。
「ねぇ丸ちゃんってさぁ、石家先生のこと好きでしょ?」
「えっ?何で?」
私は胸がドキンと鳴り、持っているハンドルをグッと握りしめた。
「いやぁ~だって顔に現れているじゃん。すぐわかるよ。」
松田はニヤニヤしながら私を見て言った。
「先生が来てから表情が全然違うもん。明るくなったよ。それに先生とお話している丸ちゃんってさぁ、とっても嬉しそうで可愛いよねぇ~。」
松田はニヤニヤした顔で続けた。
「えっ……そうかなぁ……」
私は顔がカァ―っと火照るのを感じた。胸のドキドキが強くなってきた。松田に自分の心を思い切り見透かされていることが凄く恥ずかしかった。
「本当はどうなの?」
松田はニヤニヤ顔で私の顔を覗き込みながら言ってきた。
「えっ、まぁ……先生優しいから皆に好意を持たれるよね。」
私は慌てた口調で返答した。
「まぁそうだよねぇ~。で、丸ちゃんは?」
松田のニヤニヤ尋問は続いた。
「そ、そりゃあ私も先生のこと、いいなぁ~と思っているよ。優しいし、爽やかだし、沼尻のスケベおやじとは正反対ですごくステキだと思うよ。」
私はやや慌てた口調で答えた。
(何だか心を見透かされているようで、これ以上隠してもバレるかなぁ……)
松田は確実に私の心を見透かしている。私は口に出さない分、すぐ表情や仕草に現れてしまう傾向にあるため、すぐ外部にバレてしまうところがある。そのことで損をしていることが多かった。今回も高木さんや松田に自分の想いがバレている感じだ。これ以上隠し通してもバレバレにバレるのは時間の問題だなと私は感じた。
「……実はね、私、初めて先生にあったときから好意を持っていたんだぁ~。」
私は火照った顔のままフロントガラスごしの前方車両のテールランプを睨みつけながら打ち明けた。
「ほう~やっぱりね。」
松田が更にニヤニヤした顔で私の顔を覗き込んでいた。
「実はね、この間先生を誘って飲みに行ったんだぁ~。」
「えっ?田島さんと沼尻先生と一緒に行った他に?二人きりで?」
松田が運転席側に身体を寄せてきた。
「うん、そう。」
私は恥ずかしさが更に増して、松田の顔をまともに見れなかった。
「先生から誘ってきたの?」
「いや、私から。」
「丸ちゃんから誘ったの?」
「そう。」
「やるじゃん!で、何処に飲みにいったの?」
「うんと……S市の居酒屋。」
「楽しかった?」
「うん、いろいろ話ができて楽しかったよ。」
「その後はどうしたの?まさかそれで終わり?」
「いや、S市内にある○○ビル知ってる?」
「うん知ってる。」
「あそこのビルには展望スペースがあって、そこで夜景を観に行ったの。」
「へぇ~ロマンチックじゃん!二人で夜景観賞!いいないいなぁ~!恋しているねぇ~!」
松田は興奮した声で言ってきた。
「いやぁ~でも先生はどう思っているかわからないしねぇ~。こっちの片想いだよ。」
私は少しはにかみながら答えた。松田に二人で会ったことまで打ち明けたら何だかホッとした感じがした。
「今先生彼女いないんだからチャンスだよ!丸ちゃんなら彼女になれるよ!がんばれ!」
松田は私の肩をバシバシ叩きながら嬉しそうな明るい声で言ってきた。
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ!」
松田の励ましがとても心強く聞こえて私は嬉しくなった。
「12月○日の18:30よりT観光ホテルで病院忘年会が開催されることになりました。各病棟で出席者を募っています。出席したい方は私に言ってください。病院前に送迎のバスが来るそうです。」
朝礼で前田師長が職員の前で話した。
「私出席しようかなぁ。」
高木さんが目をパッチリさせて一番に言ってきた。
「広瀬さん、松田さん、丸田さん。あなたたちも行ってみたら?ねぇ高木さん、新人さんたちも一緒に連れて行ってあげて。」
前田師長は、私たちの出席有無も確認せず高木さんに向かって言った。
「は~い。ていうかその前にあなたたち忘年会行けるの?」
高木さんは私たち3人の顔をのぞきながら聞いてきた。
「はい……」
私と松田は小さい声で返事をした。忘年会当日私と松田は日勤の予定になっていた。
「私は夜勤なので……」
広瀬は当日準夜勤の予定なので当然欠席となった。
(忘年会かぁ……恐ろしいなぁ……あの高木さんと一緒に行くのなんて恐ろしいよ……)
私は忘年会参加に対して少し恐怖を感じていた。しかも高木さんと一緒に出席となると、あの時看護部旅行で宴会の際、おもいっきり片乳はみ出しても平気で座敷内を闊歩している彼女の乱れた姿を思い出して更に恐怖が増した。勤務の始まりというのに私と広瀬は少しテンションが下がっていた。そのときだった。
「おはようございま~す。」
喜屋武教授と石家先生がナースステーションに入ってきた。
「喜屋武教授、石家先生、今度病院の忘年会があるんですけど、先生達も参加しますか?」
前田師長が先生達を見るなりいきなり声をかけた。
「えっ?忘年会?いつだね?」
喜屋武教授が少し驚いた表情で聞いてきた。
「12月〇日の18:30からで、場所はT観光ホテルです。」
「そうか~。じゃあ出席しようかな。」
喜屋武教授はすんなり返答した。
「石家君も出席しようよ。楽しいぞ。」
喜屋武教授は右隣りにいた石家先生に声掛けた。
「あ、そうですね。でも当直は?」
「それは沼尻にやらせればいいよ。私の方から言っておく。」
「あ、そうですか……でも……」
「大丈夫!それにせっかくD病院に研修で来たんからねぇ。こっちに来た記念に行こうじゃないか。」
「じゃあ……わかりました。よろしくお願いします。」
石家先生は少し遠慮がちに返答をした。
(やったぁ!石家先生が出席するんであれば行かなきゃ!楽しみ!ありがとう師長!喜屋武先生!それにしても喜屋武先生、あんなこと言って大丈夫かなぁ?あの沼尻先生とバトらなきゃいいけど……)
下がり気味であった私のテンションは一気に上がってきた。忘年会出席で喜屋武教授と沼尻先生が喧嘩になってしまうのではないかと少し気がかりにはなったけど、石家先生と一緒に忘年会に行けるとなると嬉しさの方が勝った。
(忘年会に行くときの着るものを考えなきゃ!)
その日私は忘年会という場所で石家先生と一緒の時間を過ごせる楽しみと、当日のオシャレについて考えを巡らせながら、ニヤつき顔で日勤をこなした。
忘年会当日となり、私は朝からテンションが上がっていた。前日にクローゼットから黒の大きな襟が付いたAラインで膝丈のワンピースと黒タイツ、父親に買ってもらったハイブランドの黒のハーフコート、母親から譲り受けた黒皮のポシェットと、全身黒ずくめで地味だが、自分なりにオシャレと思い、自信を持って用意をした。足元も当然黒皮のショートブーツを用意した。
その日の日勤は朝からテンション高めで張り切っていた。卵巣嚢腫の手術準備と手術室搬送、術後バイタルサイン測定、担当病室の状態確認、点滴準備、記録とハードだけどウキウキした気持ちでこなしていった。
日勤終了となり時間は17:00を回っていた。
「じゃあ、忘年会に出席する人は遅れないで行ってくださいね。」
前田師長が声をかけてきた。送迎バスは17:30から職員玄関前に待機しているとのことだった。高木さんの他に木村さん、谷中さん、山田さん、そして後から米倉主任が出席することになった。前田師長は「私ちょっと用事があるので……」と言って欠席となった。なんともわざとらしい感じであった。高木さん達は送迎バスに乗って会場へ向かった。私と松田は私の車に乗って会場入りすることとなった。時間になって、軽い足取りで更衣室へ向かい、着替えて職員玄関を出て駐車場へ向かった。松田はグレーのモヘアがかかったタートルネックセーターに黒色の膝下丈フレアスカート、足元は黒色のパンプスでキャメル色のロングコートを羽織っており、上品な感じを醸し出していた。松田は普段の通勤スタイルもとてもオシャレでデニム姿もスラリとしていてとてもカッコ良かった。そんな松田のスタイルに私も憧れを抱いていた。
(有紀さんはいいなぁ~。大人な女性って感じでステキだよなぁ~。それに比べて私は……何てダサいんだろう……)
松田の上品な着こなしをしみじみ見た私は、自分のスタイルの悪さとセンスのなさに落ち込んだ。
車に乗り込み、いざT観光ホテルへ向かう道中、私たちは主に仕事の話で盛り上がった。会話が一息ついたとき、松田が私の方を向いてふと言ってきた。
「ねぇ丸ちゃんってさぁ、石家先生のこと好きでしょ?」
「えっ?何で?」
私は胸がドキンと鳴り、持っているハンドルをグッと握りしめた。
「いやぁ~だって顔に現れているじゃん。すぐわかるよ。」
松田はニヤニヤしながら私を見て言った。
「先生が来てから表情が全然違うもん。明るくなったよ。それに先生とお話している丸ちゃんってさぁ、とっても嬉しそうで可愛いよねぇ~。」
松田はニヤニヤした顔で続けた。
「えっ……そうかなぁ……」
私は顔がカァ―っと火照るのを感じた。胸のドキドキが強くなってきた。松田に自分の心を思い切り見透かされていることが凄く恥ずかしかった。
「本当はどうなの?」
松田はニヤニヤ顔で私の顔を覗き込みながら言ってきた。
「えっ、まぁ……先生優しいから皆に好意を持たれるよね。」
私は慌てた口調で返答した。
「まぁそうだよねぇ~。で、丸ちゃんは?」
松田のニヤニヤ尋問は続いた。
「そ、そりゃあ私も先生のこと、いいなぁ~と思っているよ。優しいし、爽やかだし、沼尻のスケベおやじとは正反対ですごくステキだと思うよ。」
私はやや慌てた口調で答えた。
(何だか心を見透かされているようで、これ以上隠してもバレるかなぁ……)
松田は確実に私の心を見透かしている。私は口に出さない分、すぐ表情や仕草に現れてしまう傾向にあるため、すぐ外部にバレてしまうところがある。そのことで損をしていることが多かった。今回も高木さんや松田に自分の想いがバレている感じだ。これ以上隠し通してもバレバレにバレるのは時間の問題だなと私は感じた。
「……実はね、私、初めて先生にあったときから好意を持っていたんだぁ~。」
私は火照った顔のままフロントガラスごしの前方車両のテールランプを睨みつけながら打ち明けた。
「ほう~やっぱりね。」
松田が更にニヤニヤした顔で私の顔を覗き込んでいた。
「実はね、この間先生を誘って飲みに行ったんだぁ~。」
「えっ?田島さんと沼尻先生と一緒に行った他に?二人きりで?」
松田が運転席側に身体を寄せてきた。
「うん、そう。」
私は恥ずかしさが更に増して、松田の顔をまともに見れなかった。
「先生から誘ってきたの?」
「いや、私から。」
「丸ちゃんから誘ったの?」
「そう。」
「やるじゃん!で、何処に飲みにいったの?」
「うんと……S市の居酒屋。」
「楽しかった?」
「うん、いろいろ話ができて楽しかったよ。」
「その後はどうしたの?まさかそれで終わり?」
「いや、S市内にある○○ビル知ってる?」
「うん知ってる。」
「あそこのビルには展望スペースがあって、そこで夜景を観に行ったの。」
「へぇ~ロマンチックじゃん!二人で夜景観賞!いいないいなぁ~!恋しているねぇ~!」
松田は興奮した声で言ってきた。
「いやぁ~でも先生はどう思っているかわからないしねぇ~。こっちの片想いだよ。」
私は少しはにかみながら答えた。松田に二人で会ったことまで打ち明けたら何だかホッとした感じがした。
「今先生彼女いないんだからチャンスだよ!丸ちゃんなら彼女になれるよ!がんばれ!」
松田は私の肩をバシバシ叩きながら嬉しそうな明るい声で言ってきた。
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ!」
松田の励ましがとても心強く聞こえて私は嬉しくなった。