約束の前日である土曜日、私は昼過ぎに車を運転し、P町の隣のS市内にある行きつけの美容室へ行った。
(初めて好きな人とお出かけするのだから髪型をきちんとカットしてもらわないと!)
ウキウキした気分で席に座った。鏡に映る自分の顔は口角が上がっていてしっかりニヤついていた。
「今日はどのようになさいますか?」
上下黒ずくめのオシャレな格好をした痩せ型の男性美容師が鏡を見ながら声をかけてきた。
「あのー……毛先を3cm程カットしてサイドに軽くシャギーを入れてください。」
「かしこまりました。」
私の髪型はストレートロングで背中の中心まであった。私は毛先をきれいに整えて軽めにしてもらうのと、初めて流行りのシャギーを入れてもらうことにした。髪を切ってもらっているのを眺めながら、私は当日のデートを想像していた。
(石家先生はどう思うかな……?喜んでくれるかな……?あわよくば進展?!かな……なんて!)
ニヤニヤしている私の顔を鏡越しで見ていた男性美容師が声をかけてきた。
「何だか嬉しそうですね。」
「えっ、わかります~?」
「えぇ。」
「いや~実は明日お出かけするんですよ~。それがとっても楽しみで~。」
男性美容師は右サイドの髪の毛にハサミを縦にして細かくカットをし始めた。
「そうですか……。それってデートですか?」
男性美容師は細かくハサミをいれながらにっこり笑顔で鏡に映る私の顔をチラッと見た。
「えっ、で、デートって程ではないのですが……まぁ近いかもしれないですね……。」
ここまで話したとたん、私は顔がカァっと赤くなるのを感じた。多分男性美容師がやさしい感じのまなざしをしているせいか、他の人にも話していないことをペラっと喋っていた。
「いいですねぇ~。楽しみですね~。」
男性美容師は左右サイドの髪の毛を少し引っ張って長さを確認しながら微笑んだ表情で言った。
「えぇ……はい。」
髪を切り終え美容院を出た私は、S市内で一番の百貨店に行き、4階のヤングカジュアルウェアのあるエリアへ向かった。
(先生はどんな洋服を着た女子が好きなんだろう……ワンピーズかな?)
私はフロア内を歩き回り、とある若者向けファッションのお店でワインレッドで膝丈までのタートルネックニットワンピースを選んだ。
(これならいいか!)
会計カウンターで会計を済ませ、ニコニコ顔で百貨店を後にした。
(よし!準備完了!明日はいよいよ本番!しくじらないようにしないと!)
家に帰ってからニヤニヤしながら明日のためのバックと洋服を並べて準備をして、夜は早めに床についた。でも興奮からかあんまり寝付けず、深夜0時を過ぎてようやく眠りが来た。