「じゃあ、俺たちはタクシーで帰るから、お前ら気をつけて帰れよ~!」
沼尻先生と石家先生はカラオケボックスの受付で呼んでもらったタクシーに乗り込んで帰っていった。私は酔っぱらって千鳥足で歩いている田島先輩の腕を支えながら駐車場まで歩いていき、車に乗り込んだ。
「ねぇ~丸ちゃん。」
田島先輩がベロベロ口調で声をかけてきた。
「はい……」
私はハンドルを握り、前方を見たまま答えた。
「あんたさぁ~石家先生のことどう思う~?」
「えっ?どうって?」
「かっこいいとかやさしいとかさぁ~あるじゃん。」
「はぁ……まぁあの先生は優しくて皆から好かれていますからね~。」
私は前を見たまま冷静な口調で返事をした。ここで自分の想いを気付かれては嫌なので、努めて冷静なふりをした。心の中は多少トクトクと高鳴っていたが。
「ふぅ~ん、そうかもね。あのルックスと優しい雰囲気だから皆好きになるよね~。現に木村さんや平田さんたちもカッコイイって言ってたもんねぇ~。でもあたしはタケシ(彼氏)が一番だけどねぇ~。」
田島先輩はシートの背もたれにどっぷり寄りかかり、ベロベロ口調で惚気話をぶっ込んできた。
(あぁそうっスか。それはどうも。)
田島先輩の意表をついた彼氏の惚気を聞いて私はちょっとむかついた。田島先輩は勤務中にもちょくちょくタケシという彼氏の惚気話をぶっ込んでくることがあったが、直に聞くと何かムカついた。
病院の職員駐車場に着くと駐車場のど真ん中あたりに赤いスポーツカーが停まっていた。その車は車体が低く、後部座席はスモークガラスになっていた。
「あ、タケシが来てる!丸ちゃんありがとね~じゃあおやすみ~。」
田島先輩は助手席からふらつきながら降りると「タケシぃ~!」と大声で呼びながらフラフラ足でその赤いスポーツカーへ向かい乗り込んでいった。私はその光景を見届けてから車のハンドルを回して職員駐車場を後にした。
家に帰ってからも石家先生と交わした会話や最後で飲みに誘うことが出来た場面を思い出してはニヤニヤしていた。お風呂に入ってベッドに潜り込んでも高揚感は覚めないでいた。時計は3:00を回っていた。夜間熟眠できなかったため翌日は朝目覚ましを鳴らしても起きられず、朝礼が始まったと同時に病棟へ到着したため、当然米倉主任にこっぴどく怒られたのだった。