「もー沼尻と石家はまだ来ないのかぁー?」
時計の針は19:05経ってもまだ先生達は会場に到着しない。米倉主任はかなり苛立ったような尻上がり口調で言ってきた。
「まあまあ主任さん、先生達はもうそろそろ来るわよ~。」
隣に座っている前田師長が笑いながら米倉主任をなだめた。米倉主任は「もぅ~。」と鼻息を鳴らしながらブスくれた表情を見せた。
「いや~わりィわりィ。遅れて悪かったね。おっ、旨そうな御馳走が並んでるじゃん!」
勢いよく襖が開いて、沼尻先生が入ってきた。その後から続いて石家先生も入ってきた。
「遅れてすみませ~ん。」
「ちょっとー遅いじゃねーか!温泉入りすぎてバテたのかぁ~?」
沼尻先生達を見た途端、米倉主任が大声で言ってきた。その隣で前田師長が「まあまあ主任さん。」と苦笑いしながら肩を叩いてなだめた。
「さ、早くこっちこっち!」
米倉主任が手招きし、沼尻先生は米倉主任の隣にドカッと胡坐をかいた。浴衣の隙間から、青白ストライプ柄のトランクスが見えていた。その隣に石家先生が静かに正座した。
「じゃあ皆さんそろいましたね!みなさん、本日はお疲れ様でした!温泉で旅の疲れを癒した後は美味しいお酒とお食事を大いに堪能して日頃のストレスを思いっきり発散しましょう!では、沼尻先生、来たばかりだけど乾杯の音頭をお願いします。」
前田師長が、ハキハキしたハスキーボイスで宴会の挨拶をした。いきなり前田師長から乾杯の音頭を振られた沼尻先生は「えっ、俺?」と小声で言いながらスッと立ち上がった。胡坐をかいていたので浴衣は膝上まで前が開いたままだった。
「んじゃぁ~乾杯!」
沼尻先生のシンプルな乾杯の音頭で皆がビールの入ったグラスを挙げて飲み干していた。私はビールが苦手なので、3口程飲んで辞めた。口の中でビールの苦みが広がって顔をしかめた。
「いただきま~す!」
しばしご歓談の時間が始まった。皆しばらく無言でお膳の御馳走に舌鼓を打っていた。でも無言になっていたのは数分程度で、皆ビールをガバガバ飲んでお酒が進んできたのか所々で「ガハハ」と笑い声が聞こえてきた。
「ほらぁ~先生ぇ~飲んで飲んでぇ~。」
米倉主任は沼尻先生に積極的にお酌をしていた。そのおかげで二人の顔全体がみるみる真っ赤になり、リアルな赤鬼(子供の頃に見た絵本にある赤鬼に近い感じ)2匹がいるように見えた。空のビール瓶がどんどん増えていき、宴会場内が笑い声で溢れてきた。そして、前田師長や米倉主任、沼尻先生達にお酌をするために各々お膳から離れていった。
「私たちもお酌に行った方がいいよね。」
「うんそうだね。」
松田がビール瓶を持って立ち上がった。広瀬と私も後について行った。お酌第一弾は前田師長だ。
「師長さん、お疲れ様でーす。」
松田が師長のグラスにビールを注いだ。広瀬と私はニッコリ笑顔でその後ろに座った。
「あら~どうもね。みんなお疲れさん。いつも病棟でがんばってくれてるよね。」
前田師長はお酒が入っているのもあり上機嫌であった。ピンク色になった顔を緩ませて私たちにねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございまーす。」
私たち3人は前田師長にお礼を言って立ち上がった。
(お酌第一弾、完了!さあ、第二弾……)
お酌第二弾は米倉主任だ。私たちはすぐ隣であぐらをかいて座っている真っ赤な顔の米倉主任の前に移った。
「主任さん、お疲れ様ですぅ~。」
松田が営業スマイルで米倉主任のグラスへビールをお酌した。私と広瀬はヘラヘラ笑顔で松田の背後に腰を下ろした。
「おう、お疲れさん。あんたたち、そんなに飲んでないんじゃないの?」
「えっ?」
「ほら、グラス出しな!」
「は、はい……」
私たちは自分たちのお膳にあるグラスを取って、米倉主任の前に戻った。米倉主任はふんぞり返った姿勢のまま、私たち3人のグラスにビールを注いだ。
「はい、カンパ~イ!お疲れ~!」
米倉主任、松田、広瀬は一気にグラス内のビールを飲み干した。私はビールが苦手なので、渋い顔でチョビチョビ飲んでグラスから口を離した。グラス内にはビールが半分以上残っていた。
「何だぁ?丸田、お前そんなに飲んでないじゃん。そういえばバスでも飲まなかったよな。」
「はぁ……ちょっと苦手で……」
「あっそう。なあ丸田、お前さぁ~いーっつも病棟では仏頂面してるよな。少しは愛想良くしねぇとだめだぞ~。」
米倉主任は真っ赤な顔の座っている眼で私の顔を見てきた。その顔を正面から見た私は背筋がブルっと震えた。幼い頃に見た絵本に描かれていた赤鬼の顔そのものに見えたのだ。まるでリアル赤鬼だ。予想はしていたが、酔った勢いで正面から説教を食らうのはやはり気分良くない。
「あ、そうですかぁ~?どうもすんませ~ん。」
私はヘラヘラ笑いながら平謝りした。
(やはり絡まれた……ていうか、あたしいつも仏頂面なんかしていないけど……)
「お前、笑うと結構可愛いんだからさぁ~もっと笑顔にならないともったいないぞ!お前は意識していない様だけど、周りはお前のことを見ているんだからな。印象は大事だぞ~。」
(えっ?可愛い?そうなの?)
「あっ、はい……」
米倉主任が酔った勢いで私を励ましているのか、諭しているのか、とにかく米倉主任から「可愛い」と言われたことがちょっぴり嬉しかった。
(可愛い……かぁ。赤鬼(米倉主任)はそう思ってくれていたんだ……)
結局米倉主任から説教を食らったのは私だけだった。松田、広瀬は普段から病棟で愛想よく上手くやっているのからだろう。松田、広瀬はニッコリ愛想良い笑顔で主任と会話をしていた。私はその様子を苦笑の表情で見ていた。
(石家先生は……どこにいるのかな‥‥‥)
私の視線は、石家先生を探していた。石家先生はさっきまで沼尻先生と仕事のことなのか、真顔で話しをしていたが、その後フラッと席を立ったのが見えたのだ。そして谷中さん達のところで一緒にワイワイと酒を酌み交わしながら談笑していた。皆、ヘビースモーカーなのでガンガン喫煙もしており、そこの一体は煙草の煙で覆われてモヤモヤしていた。石家先生は、ビールをガンガン飲んで酔っ払っているのもあり、真っ赤な顔をクシャとさせて大笑いしていてとても楽しそうな笑顔だった。
(谷中さんたちはいいなぁ……あんなに楽しく話ができて。)
私は、石家先生と谷中さんたちが談笑している様子を離れた場所から羨まし気に眺めていた。
「おい丸田!。」
「は、はい!」
私は急いで視線を米倉主任へ移した。
「丸田、お前な~に見ていたんだ~?」
「えっ?」
「お前もしかして石家のことを見ていたのか?」
私は一瞬胸がドキンと大きな音を立てて鳴ったのを感じた。
(やばい!バレたか?)
「あっ、いえいえ、違いますよぉ~」
私は笑顔で否定をしたが、顔がカァ~と紅潮するのを感じた。米倉主任にこころを見透かされた感じがしてドキドキした。
「そういえばお前、石家が来てから何か雰囲気が変わってきたよな?」
「そ、そうですかぁ~?」
「そうそう。さっきお前のこと仏頂面って言ったけど、最近は何だか明るくなった感じがしていたよ。」
「そ、そうですか~?」
「あ~っ、お前もしかして、石家のこと好きなのか?」
米倉主任は直球を投げてきた。
「そ、そんなことないですよぉ~。もう主任さんたらぁ~ハハハハハ。」
私は笑いながら否定した。胸はドキドキと大きな音を立てて鳴り続けていた。
(その後先生にお酌をして仲良くなろうと思ったけど、これじゃあ行きづらいじゃん。)
この宴会で石家先生のところへお酌をして仲良くなり、距離を縮めようとした私の計画が、米倉主任のおかげで決行できなくなった。私たち新人3人はお酌第3弾として一人ポツンと座って日本酒を飲んでいる沼尻先生へ義務的お酌をした。
時計の針は19:05経ってもまだ先生達は会場に到着しない。米倉主任はかなり苛立ったような尻上がり口調で言ってきた。
「まあまあ主任さん、先生達はもうそろそろ来るわよ~。」
隣に座っている前田師長が笑いながら米倉主任をなだめた。米倉主任は「もぅ~。」と鼻息を鳴らしながらブスくれた表情を見せた。
「いや~わりィわりィ。遅れて悪かったね。おっ、旨そうな御馳走が並んでるじゃん!」
勢いよく襖が開いて、沼尻先生が入ってきた。その後から続いて石家先生も入ってきた。
「遅れてすみませ~ん。」
「ちょっとー遅いじゃねーか!温泉入りすぎてバテたのかぁ~?」
沼尻先生達を見た途端、米倉主任が大声で言ってきた。その隣で前田師長が「まあまあ主任さん。」と苦笑いしながら肩を叩いてなだめた。
「さ、早くこっちこっち!」
米倉主任が手招きし、沼尻先生は米倉主任の隣にドカッと胡坐をかいた。浴衣の隙間から、青白ストライプ柄のトランクスが見えていた。その隣に石家先生が静かに正座した。
「じゃあ皆さんそろいましたね!みなさん、本日はお疲れ様でした!温泉で旅の疲れを癒した後は美味しいお酒とお食事を大いに堪能して日頃のストレスを思いっきり発散しましょう!では、沼尻先生、来たばかりだけど乾杯の音頭をお願いします。」
前田師長が、ハキハキしたハスキーボイスで宴会の挨拶をした。いきなり前田師長から乾杯の音頭を振られた沼尻先生は「えっ、俺?」と小声で言いながらスッと立ち上がった。胡坐をかいていたので浴衣は膝上まで前が開いたままだった。
「んじゃぁ~乾杯!」
沼尻先生のシンプルな乾杯の音頭で皆がビールの入ったグラスを挙げて飲み干していた。私はビールが苦手なので、3口程飲んで辞めた。口の中でビールの苦みが広がって顔をしかめた。
「いただきま~す!」
しばしご歓談の時間が始まった。皆しばらく無言でお膳の御馳走に舌鼓を打っていた。でも無言になっていたのは数分程度で、皆ビールをガバガバ飲んでお酒が進んできたのか所々で「ガハハ」と笑い声が聞こえてきた。
「ほらぁ~先生ぇ~飲んで飲んでぇ~。」
米倉主任は沼尻先生に積極的にお酌をしていた。そのおかげで二人の顔全体がみるみる真っ赤になり、リアルな赤鬼(子供の頃に見た絵本にある赤鬼に近い感じ)2匹がいるように見えた。空のビール瓶がどんどん増えていき、宴会場内が笑い声で溢れてきた。そして、前田師長や米倉主任、沼尻先生達にお酌をするために各々お膳から離れていった。
「私たちもお酌に行った方がいいよね。」
「うんそうだね。」
松田がビール瓶を持って立ち上がった。広瀬と私も後について行った。お酌第一弾は前田師長だ。
「師長さん、お疲れ様でーす。」
松田が師長のグラスにビールを注いだ。広瀬と私はニッコリ笑顔でその後ろに座った。
「あら~どうもね。みんなお疲れさん。いつも病棟でがんばってくれてるよね。」
前田師長はお酒が入っているのもあり上機嫌であった。ピンク色になった顔を緩ませて私たちにねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございまーす。」
私たち3人は前田師長にお礼を言って立ち上がった。
(お酌第一弾、完了!さあ、第二弾……)
お酌第二弾は米倉主任だ。私たちはすぐ隣であぐらをかいて座っている真っ赤な顔の米倉主任の前に移った。
「主任さん、お疲れ様ですぅ~。」
松田が営業スマイルで米倉主任のグラスへビールをお酌した。私と広瀬はヘラヘラ笑顔で松田の背後に腰を下ろした。
「おう、お疲れさん。あんたたち、そんなに飲んでないんじゃないの?」
「えっ?」
「ほら、グラス出しな!」
「は、はい……」
私たちは自分たちのお膳にあるグラスを取って、米倉主任の前に戻った。米倉主任はふんぞり返った姿勢のまま、私たち3人のグラスにビールを注いだ。
「はい、カンパ~イ!お疲れ~!」
米倉主任、松田、広瀬は一気にグラス内のビールを飲み干した。私はビールが苦手なので、渋い顔でチョビチョビ飲んでグラスから口を離した。グラス内にはビールが半分以上残っていた。
「何だぁ?丸田、お前そんなに飲んでないじゃん。そういえばバスでも飲まなかったよな。」
「はぁ……ちょっと苦手で……」
「あっそう。なあ丸田、お前さぁ~いーっつも病棟では仏頂面してるよな。少しは愛想良くしねぇとだめだぞ~。」
米倉主任は真っ赤な顔の座っている眼で私の顔を見てきた。その顔を正面から見た私は背筋がブルっと震えた。幼い頃に見た絵本に描かれていた赤鬼の顔そのものに見えたのだ。まるでリアル赤鬼だ。予想はしていたが、酔った勢いで正面から説教を食らうのはやはり気分良くない。
「あ、そうですかぁ~?どうもすんませ~ん。」
私はヘラヘラ笑いながら平謝りした。
(やはり絡まれた……ていうか、あたしいつも仏頂面なんかしていないけど……)
「お前、笑うと結構可愛いんだからさぁ~もっと笑顔にならないともったいないぞ!お前は意識していない様だけど、周りはお前のことを見ているんだからな。印象は大事だぞ~。」
(えっ?可愛い?そうなの?)
「あっ、はい……」
米倉主任が酔った勢いで私を励ましているのか、諭しているのか、とにかく米倉主任から「可愛い」と言われたことがちょっぴり嬉しかった。
(可愛い……かぁ。赤鬼(米倉主任)はそう思ってくれていたんだ……)
結局米倉主任から説教を食らったのは私だけだった。松田、広瀬は普段から病棟で愛想よく上手くやっているのからだろう。松田、広瀬はニッコリ愛想良い笑顔で主任と会話をしていた。私はその様子を苦笑の表情で見ていた。
(石家先生は……どこにいるのかな‥‥‥)
私の視線は、石家先生を探していた。石家先生はさっきまで沼尻先生と仕事のことなのか、真顔で話しをしていたが、その後フラッと席を立ったのが見えたのだ。そして谷中さん達のところで一緒にワイワイと酒を酌み交わしながら談笑していた。皆、ヘビースモーカーなのでガンガン喫煙もしており、そこの一体は煙草の煙で覆われてモヤモヤしていた。石家先生は、ビールをガンガン飲んで酔っ払っているのもあり、真っ赤な顔をクシャとさせて大笑いしていてとても楽しそうな笑顔だった。
(谷中さんたちはいいなぁ……あんなに楽しく話ができて。)
私は、石家先生と谷中さんたちが談笑している様子を離れた場所から羨まし気に眺めていた。
「おい丸田!。」
「は、はい!」
私は急いで視線を米倉主任へ移した。
「丸田、お前な~に見ていたんだ~?」
「えっ?」
「お前もしかして石家のことを見ていたのか?」
私は一瞬胸がドキンと大きな音を立てて鳴ったのを感じた。
(やばい!バレたか?)
「あっ、いえいえ、違いますよぉ~」
私は笑顔で否定をしたが、顔がカァ~と紅潮するのを感じた。米倉主任にこころを見透かされた感じがしてドキドキした。
「そういえばお前、石家が来てから何か雰囲気が変わってきたよな?」
「そ、そうですかぁ~?」
「そうそう。さっきお前のこと仏頂面って言ったけど、最近は何だか明るくなった感じがしていたよ。」
「そ、そうですか~?」
「あ~っ、お前もしかして、石家のこと好きなのか?」
米倉主任は直球を投げてきた。
「そ、そんなことないですよぉ~。もう主任さんたらぁ~ハハハハハ。」
私は笑いながら否定した。胸はドキドキと大きな音を立てて鳴り続けていた。
(その後先生にお酌をして仲良くなろうと思ったけど、これじゃあ行きづらいじゃん。)
この宴会で石家先生のところへお酌をして仲良くなり、距離を縮めようとした私の計画が、米倉主任のおかげで決行できなくなった。私たち新人3人はお酌第3弾として一人ポツンと座って日本酒を飲んでいる沼尻先生へ義務的お酌をした。