「いや~極楽極楽!」
「温泉はやっぱりイイもんっスよねぇ~。最高!」
私はすぐ後ろを振り返った。視線の先には男湯から沼尻・石家両先生が浴衣姿でハハハと談笑しながら出てきたのが見えた。二人とも真っ赤な顔してご満悦の表情を浮かべており、髪は濡れたまま白いタオルをターバンのように巻いていた。浴衣の胸の部分は少し開いており、首から胸にかけても赤々としていた。
「あっ、先生!」
私は思わず石家先生に声をかけた。
「おっ、君たちも温泉上がりか!いいねぇ~若い子たちの浴衣姿!」
沼尻先生が真っ赤なヘラヘラ顔こちらに向けてきた。
(オメぇじゃなく石家先生に声かけたんだけど)
「いやぁ~温泉なんて超久しぶりなもんで、思わず長湯をしてしまったよぉ~。やっぱいいよね~。」
石家先生が同じく真っ赤なクシャクシャ笑顔で応えてくれた。
「そうですよねぇ~。私も超久しぶりで嬉しくて長湯してしまいましたよぉ~。」
石家先生が笑顔で応えてくれたことが嬉しくて私はニコニコ笑顔を浮かべていた。
「先生たち~何だか茹蛸みたいですよ~。」
松田が先生達を交互に見て言った。
「ホントだ~。茹蛸だ~。」
その後広瀬も笑いながらそれに続いた。
「君たちも真っ赤だぞ~。あっ、ところで宴会は19時からだっけ?場所はどこだ?」
沼尻先生が真っ赤な顔で聞いてきた。
「そうですよ~。19時からで場所は1階にある宴会所『鳳凰の間』って一木さんが言っていましたよ~。」
松田が宴会の場所と時間を教えた。
「そうかそうか~ありがと!」
沼尻先生はヘラヘラ笑顔でお礼を言った。
「では宴会場で!」
私たちは「それじゃ!」と言って先生達と別れて宿泊部屋へ戻っていった。
(浴衣姿の先生もいいよなぁ~。ちょっと胸が開けているところがまたセクシーだなぁ~。)
部屋に戻った私は、温泉上がりで浴衣姿の石家先生を思い出しながら二人にバレないようにニヤニヤしていた。
18:50頃になり、私たち3人は1階宴会場『鳳凰の間』に向かった。遂に恐怖の大宴会が始まるのだ。きっと赤鬼米倉主任が大暴れするのは間違いなし、そして私たち新人にも被害が及ぶのは容易に想像できた。怖さは3分の2、でも残りの3分の1は楽しみでもあった。石家先生だ。
この宴会を機に更に距離が近づき、あわよくば……。そんな想像をしながら私は多少のドキドキ感を抑えながら廊下をパタパタと歩いていった。宴会場の前に到着すると、襖越しから「アッハッハー」と米倉主任と谷中さん達の大笑いする声が漏れ聞こえていた。私たち3人は襖をゆっくりと開けてその笑い声が響き渡る中、身を縮めながらちょこちょこ歩いて御馳走が並んでいるお膳の前に正座をした。宴会場にはお膳が6個ずつ2列に対面で並んでおり、奥側の上座に前田師長と米倉主任、反対側の上座に谷中さん、木村さん、山田さん、平田さんが浴衣姿でドカンと座り、談笑していた。奥側の列の隅っこには一木さんが浴衣姿で小さく正座していた。おばちゃん達の中にいる一木さんは行きのバス内にいたときよりも小さく縮んでいるように見えた。私たちは平田さんの隣に並んで正座をした。私は列の一番端に座った。お膳には天ぷら、お刺身、ご飯、漬物、小さな鉄板鍋の上にはお肉と野菜がのっていた。それを見た途端、自分が空腹であることを感じた。
「さすが、御馳走が並んでいるね!」
「美味しそうだね~早く食べたい!」
お膳の御馳走を見ながら私たちは口々に「腹減ったー!」と言わんばかりに言葉を発した。
私は強い空腹を感じながらも会場をキョロキョロ見渡し、そして背後にある入り口の襖をチラッと見た。まだ石家先生が会場に到着していないのだ。