就職して1年目は研修期間として勤務することになっていた。研修は外科・内科コースに分かれており、どのコースに行くかは看護部長室で選別された。私は外科コースで、手術室と消化器外科病棟に行くことになった。最初は手術室にて研修が始まったが、これがとても恐ろしかった。実習では見学のみの数時間しかいなかったので、手術室看護師の勤務内容がほとんどわからなかった。初めて虫垂切除術の直接介助について、執刀医のすぐ隣に立ったときは物凄く手が震えた。手術器具を医師へ手渡ししている自分が信じられなかった。手術器具がすぐに出せず、また腹部縫合前に使用器具をカウントできず、執刀医から怒鳴られたり、間接介助で準備の仕方が分からず先輩看護師から怒られ、使用薬品のカウントが遅れて麻酔科医から怒鳴られた。
「あたし、オペ室無理だ……。」
勤務が終わって更衣室で私服に着替えるとき、自分の仕事の出来なさに落ち込んでいた。新人だから怒られて当然と思うが、いつも怒られているとさすがに心が暗くなった。
3か月間地獄の手術室研修終了後、私は消化器外科病棟に移り、やっと白衣とナースキャップを身に着けて看護師らしい勤務ができると張り切っていた。清拭、洗髪等身体ケア、注射や点滴管理、検査処置、剃毛や術前オリエンテーション等手術前患者の処置、手術後のバイタルサイン測定と状態観察等の対応、初めて本格的な夜勤業務と一つ一つ業務実践ができてとても充実していた。覚えること、確認することが多くて大変だが、初めて看護師となったことへの実感が湧いてきた。
「病棟なら何とかやっていけそう。」
病棟での研修が進むにつれて、私の中で病棟看護師として勤務したい思いが強くなった。研修終了の3か月前より、看護部長室から配属希望病棟の聴取が始まった。私には、ぜひ配属されたい希望病棟があった。それは、口腔外科、耳鼻科、皮膚科、内科の混合病棟だった。なぜそこを希望したかというと、一科でなく混合科で面白そうだし、憧れの口腔外科講師の林田先生がいたからだった。地獄の手術室研修中、唯一癒しと憧れの存在だった林田先生。彼は決して看護師を怒鳴ることなく、常に穏やかな表情を浮かべていた。私は、上顎嚢胞切除術や顔面骨折整復術等口腔外科手術で直接介助につく機会があり、その時執刀医であった林田先生がめちゃくちゃかっこよかった。手術の手際が良くて時間がかからず早く終わり、かつ術野がとても綺麗だった。
「仕事ができる男はカッコいい!」
私はしみじみそう思った。
「ぜひぜひ混合病棟に配属されたい!林田先生にお近づきになりたい!」
私は、願いを込めて看護部長室へ配属希望を書いた用紙を提出した。
消化器病棟での研修が終わろうとしている3月中旬、遂に正式な病棟配属先の発表が始まった。新人看護師一人ひとり看護部長室に呼び出され、看護部長直々に配属先を告げられた。
「丸田さん、看護部長室に来てください。」
看護部長から電話で呼び出された私は、胸の鼓動が高鳴らせながら看護部長室へ向かった。
「失礼します。丸田です。」