「春田君はバスケ以外に好きなものは何かある?」。

「えー……あんまりないかな。」

「映画とかは観るの?」

「あんまり観ない。」

「そうなんだ……。」

「…………。」

(譲二君、あなたはバスケ以外興味あるものはないのかな?もしかして無趣味?)

話題を絞り出すも、ことごとく続かず失敗に終わっている。沈黙が続く度に心が重

苦しく、居心地が悪い。せっかく目の前に憧れのプリンス譲二君がいて、二人きり

で話しているのに。

恋の最大のチャンスなのに心が重苦しい。

(何なんだこれは……。ねえ、比呂ちゃんの占いでは、私は譲二君に告白されると

出ていたが、告白どころか沈黙続きでそんな気配は微塵も感じないんだけ

ど……。)

「春田君は高校卒業したらどうするの?」

「俺?就職するよ。」

「どこに就職なの?」

「○○の工場。」

「就職先はこの近くなの?それともT市内?」

「うん。T市の外れにあるんだ。」

譲二君は、高校卒業後はT市内にある某製薬会社の薬品工場に就職する予定だ。

「そうなんだ……。私はね、看護学校に進学するの。学校はT市の隣にあるP町にあ

るの。クラスの友達が看護学校を受けると聞いて、私も将来のことを考えて看護師

になろうかなあ~と思ったの。」

私は、譲二君から聞かれたわけでなく自分から看護学校へ進学することを話した。

相手の進路を聞き出しながら自分が言わないのも失礼に当たるし、それに将来看護

師になることを強調して好感度を上げたいというセコい策でもあった。既に私はP町

内にあるT*大学病院付属の看護専門学校の入学試験に合格し、入学が決まっていた。

「ふう~ん。」

譲二君は真顔で返事をした。私の進路先について譲二君はあんまり興味がないらし

い。

(そうだよね……あんまり興味ないよね。)

「……看護学校に通う途中でもどこかで会えるといいなあ……。」

私は少しの希望を持てるようにとの思いで言ってみた。

「俺、もう工場へは電車では通わない。車で通うよ。」

「えっ?車の免許取ったの?」

「うん。」

譲二君はもう既に普通自動車免許を取得していたのだ。

(そうか……もう駅で会うことはないんだ……。)

店内の時計を見ると、14:45を指していた。もう1時間は経過していたのか。1時間

が長く感じたのは、沈黙が多かったせいだろう。