ヴァイルデン帝国帝都・アルクレオン――大陸における帝国の栄華を示すように、その場所はとても華やかだった。
「リリア様、体調はいかがでしょう。アルクレオンは、メルトワーズと比べるととても寒いでしょう?」
「そうね――とっても。それに、すごく道が広い……帝国領に入ってからずっと、ちゃんと整備された道を通ってきたみたいだけど……」
一週間前に母国を発ってから、更に馬車で数日。
城を出立する時は、ダグラスお兄様やアリエスお姉様だけではなく、多忙な王太子のファウエルお兄様やナターシャお姉様まで見送りに来てくださった。
生まれ育った城がどんどん小さくなるのを見た時は泣きそうになったけれど、国境を出てしまえばその悲しさも覚悟に変わる。
「えぇ、交通網の拡充と整備は、ヨハネス陛下の制作の要でもありますから。物資の運搬や商人たちの行き来にも、安全な道路は必要となりますからね」
「そ、そうなの。……その、ルネ? 一つ聞いてもいいしら」
「なんなりとお聞きくださいませ、リリア様」
帝国に向かうわたしには、専属の侍女が一人つけられた。
名前はルネ――ルネ・アルヴァン。代々皇帝一家に仕えている家柄の出身だという彼女は、皇妃となるわたしのためにわざわざアルクレオンから馬車に乗ってやってきた。
わたしが疑問に思ったことやわからないこと、帝国風の作法などで詳しいことがわからない場合も、このルネに尋ねればなんでもわかってしまう。
「道路を作ったのは、やっぱり……敵国の捕虜とか、奴隷とかなのかしら」
「そんなことしてたら、いくら領土を広げても人員不足になってしまいますよ! 工事に当たっているのは王宮専属の測量士と職人集団、それと現地の農民たちです」
「農民?」
測量士と職人集団が駆り出されるのはよくわかる。
無駄に土地を削れば川が氾濫を起こしたり、山が崩れたりすることだってあるだろう。
それを防ぐのに、王宮で専門の技師を派遣するというのはメルトワーズ王国でも行われていることだった。
でも、農民が田畑を耕さずに工事に従事してしまえば、困るのは国の方じゃないんだろうか。
「帝国の領土はとても広く、僻地では瘦せた土地も多いんです。作物が取れねば税金が払えず、民は飢える一方……そこで、納税を免除する代わりに一定期間道路の整備を任せるんです。もちろん、お給金もちゃんと発生しますよ」
「それは――大丈夫なの?」
税金が払えなかったり、作物が取れずに困窮する人たちにとっては救済措置かもしれない。
でも、食料の供給がなければ困るのは他の国民たちだ。
「えぇ、大丈夫です。帝国は農業地帯が多いですから、国民の食べる分くらいでしたら供給はできますよ。それに、諸外国との貿易も……ヨハネス陛下の御代になって、かなり活発になりましたから」
ルネの言葉に、わたしはぽかんとした表情を浮かべているしかできない。
戦争ばかりしていると思っていたヨハネス陛下が、ここまで色々なことを考えているとは思わなかった。
わたしが帝国領に入って王都を目指している道すがらも、人々は馬車に向かって手を振ってくれたりしていた。
そういうところを考えると、陛下は割と民に好かれているのかも。
「知らなかったわ。こう、メルトワーズには――あまり陛下のお話が入ってこないから」
「あー、そうですよねぇ。戦争大好き~! って思われてても仕方がないっていうか」
仕方がないというか、普通に戦争大好きだと思ってた。
でも、戦争にかまけて国のことを顧みないような王様ではないみたいだ。
それならきっと、わたしがあそこまで国民に歓待されることはなかっただろう。
「もうすぐお城に到着しますけれど、他になにかご質問はございますか?」
「え? そうね――あの、窓を開けてみてもいい? さっきからずっと声が聞こえていて……皆さんに、顔くらいは見せたいと思うんだけど」
帝都の中央を突っ切る大街道を、馬車はひた走る。
そんな中で、絶えず人々の歓声が聞こえてきていた。
馬車の窓は不用意に開けてはいけないと言われているので、一応ルネに許可を取ることにする。
「王都に入ったので、多分大丈夫だと思いますよ!」
「リリア様、体調はいかがでしょう。アルクレオンは、メルトワーズと比べるととても寒いでしょう?」
「そうね――とっても。それに、すごく道が広い……帝国領に入ってからずっと、ちゃんと整備された道を通ってきたみたいだけど……」
一週間前に母国を発ってから、更に馬車で数日。
城を出立する時は、ダグラスお兄様やアリエスお姉様だけではなく、多忙な王太子のファウエルお兄様やナターシャお姉様まで見送りに来てくださった。
生まれ育った城がどんどん小さくなるのを見た時は泣きそうになったけれど、国境を出てしまえばその悲しさも覚悟に変わる。
「えぇ、交通網の拡充と整備は、ヨハネス陛下の制作の要でもありますから。物資の運搬や商人たちの行き来にも、安全な道路は必要となりますからね」
「そ、そうなの。……その、ルネ? 一つ聞いてもいいしら」
「なんなりとお聞きくださいませ、リリア様」
帝国に向かうわたしには、専属の侍女が一人つけられた。
名前はルネ――ルネ・アルヴァン。代々皇帝一家に仕えている家柄の出身だという彼女は、皇妃となるわたしのためにわざわざアルクレオンから馬車に乗ってやってきた。
わたしが疑問に思ったことやわからないこと、帝国風の作法などで詳しいことがわからない場合も、このルネに尋ねればなんでもわかってしまう。
「道路を作ったのは、やっぱり……敵国の捕虜とか、奴隷とかなのかしら」
「そんなことしてたら、いくら領土を広げても人員不足になってしまいますよ! 工事に当たっているのは王宮専属の測量士と職人集団、それと現地の農民たちです」
「農民?」
測量士と職人集団が駆り出されるのはよくわかる。
無駄に土地を削れば川が氾濫を起こしたり、山が崩れたりすることだってあるだろう。
それを防ぐのに、王宮で専門の技師を派遣するというのはメルトワーズ王国でも行われていることだった。
でも、農民が田畑を耕さずに工事に従事してしまえば、困るのは国の方じゃないんだろうか。
「帝国の領土はとても広く、僻地では瘦せた土地も多いんです。作物が取れねば税金が払えず、民は飢える一方……そこで、納税を免除する代わりに一定期間道路の整備を任せるんです。もちろん、お給金もちゃんと発生しますよ」
「それは――大丈夫なの?」
税金が払えなかったり、作物が取れずに困窮する人たちにとっては救済措置かもしれない。
でも、食料の供給がなければ困るのは他の国民たちだ。
「えぇ、大丈夫です。帝国は農業地帯が多いですから、国民の食べる分くらいでしたら供給はできますよ。それに、諸外国との貿易も……ヨハネス陛下の御代になって、かなり活発になりましたから」
ルネの言葉に、わたしはぽかんとした表情を浮かべているしかできない。
戦争ばかりしていると思っていたヨハネス陛下が、ここまで色々なことを考えているとは思わなかった。
わたしが帝国領に入って王都を目指している道すがらも、人々は馬車に向かって手を振ってくれたりしていた。
そういうところを考えると、陛下は割と民に好かれているのかも。
「知らなかったわ。こう、メルトワーズには――あまり陛下のお話が入ってこないから」
「あー、そうですよねぇ。戦争大好き~! って思われてても仕方がないっていうか」
仕方がないというか、普通に戦争大好きだと思ってた。
でも、戦争にかまけて国のことを顧みないような王様ではないみたいだ。
それならきっと、わたしがあそこまで国民に歓待されることはなかっただろう。
「もうすぐお城に到着しますけれど、他になにかご質問はございますか?」
「え? そうね――あの、窓を開けてみてもいい? さっきからずっと声が聞こえていて……皆さんに、顔くらいは見せたいと思うんだけど」
帝都の中央を突っ切る大街道を、馬車はひた走る。
そんな中で、絶えず人々の歓声が聞こえてきていた。
馬車の窓は不用意に開けてはいけないと言われているので、一応ルネに許可を取ることにする。
「王都に入ったので、多分大丈夫だと思いますよ!」