紗里の語尾は微かに震えていた。直前まで泣くのを我慢して、今外で泣いているのかもしれない。

 っくそ、泣きたいのはこっちの方なのに……っ。

 イライラが(おり)のように溜まり、肺を埋め尽くしていく。

 控えめに言って最悪な気分だった。

 きっと紗里は確固たる理由を持ってあの角材を置いたに違いない、そう頭では理解しているのに、心はぐずぐずとノロマで追い付こうとしない。

 心ない言葉で紗里を傷付けたことを、ようやく後悔し始めた。

 ……俺はいったい何に怒っているんだろう?

 怪我をしたせいで試合に出れなくなったこと?

 勿論、それはあるだろうが……多分それだけじゃない。

 今日は朝からずっとモヤモヤしていて、胃や肺のあたりにムカつきが溜まって気持ち悪いんだ。

 こんな状態になってもなお、紗里が何の弁解もしてこないことにも腹が立っていた。

 紗里がなぜああいう行動に出たのか、なぜ試合に行かない方がいいのか、あいつは何も教えちゃくれない。

 それに……。

 もしかしたら、古賀先輩は紗里の秘密めいた行動を知っていて、その上で親密なのかもしれないと思うと、もうどうしようもなく腹が立った。