「行かない方がいいからだよっ」

「だからそれを……っ」

 そう言ったところで、背後からぶつかってきた古賀先輩を思い出した。

「まさか紗里から古賀先輩に頼んだんじゃないよな?」

「……なにが?」

「ぶつかること」

「な、そんなわけないじゃない」

「じゃあ、なんなんだよ! おまえらやけに親しいじゃんっ、ふたりして俺のこと陥れようとしてんだろっ!?」

「そんなこと、するはずない!」

「……なに喧嘩してんの?」

 階段の上から玄関を見下ろす大和が、キョトンと目を瞬いた。そのままトントンと階段を降りて来る。

 なんとなく決まりが悪くて、自室として使わせてもらっている洋室を開けた。

「恭ちゃん、足……どうしたの?」

 ヒョコヒョコと跛行(はこう)する僕を見て、大和がすぐそばに寄った。

「今日、学校で転んだんだよ」

「……そうなんだ」

 痛そう、と言いたげに大和が顔をしかめた。

「そいつのせいで」

 依然として玄関に突っ立ったままの紗里を顎で差すと、彼女は今にも泣きそうな表情(かお)で俯き、「ごめんなさい」と呟いた。そのまま紗里は靴を履き、外に出て行く。