「お帰り、恭ちゃん」

 痛めた右足を引きずりながら、玄関の上がり段に腰をおろす。それまで肩に掛けていた通学鞄をすぐ横に置いた。

 ただいま、と返事をする気にもなれなかった。紗里は無言で僕の背中を見ているだけで、大丈夫、とは尋ねなかった。

 こうなることを知っていたからだ。今日の昼にあの角材を置いた時点で、紗里は僕が転ぶことを知っていた、そうに違いなかった。

「病院、行った……?」

 靴から左足だけを抜き、なんとかその場に立ち上がる。

「早ければ二週間で治るって」

「そっか」

 ほう、と彼女が安堵する。その表情を見て無性に苛ついた。

「紗里だろ?」

「……え?」

「俺が転んだあの場所に角材を置いたの」

「……えぇ、と」

 紗里は不自然に目を逸らした。

「昼間見たんだ。おまえが校庭の隅のあの場所に置くのを」

「………」

「なんでそんなことするんだよ、俺に怪我させるため?」

 彼女は右手で左腕をギュッと握りしめながら、俯きがちに下唇を噛んだ。

 十数秒、無言が続いたが、やがて彼女はコクンと頷いた。

「恭ちゃんを……試合に行かせないため」

「っなんで!」